【花火大会】夏の夜花に何を見る｜リアクション

【花火大会】夏の夜花に何を見る

☆あじさいの花火～思い出と共に

　寝子高校３年生の森篠琳子は、家の事情もあって大学への進学は断念して、今は就活中だ。
　９月に行われる寝子島信用組合の入社試験を受けるべく試験勉強中だが、今日は試験勉強の合間を縫って、妹を連れて花火大会へ出かけている。
　９歳になる妹の奏子は薄いピンク地に朝顔の華やかな浴衣、琳子は淡い緑色の花柄の浴衣姿だ。
「花火、花火ー」
　と嬉しそうな妹に対して、
「あんまりはしゃがないの！」
　と声をかける。それから小さくため息を吐いた。
　その様子は物憂げな美人といったところだ。
（父さんがいたらなあ）
　夜空を見ながら、琳子は２年前の花火大会を思いだしていた。
　
（２年前にも家族そろって花火大会に行ったのに）
　彼女が高校１年の時に、父は急性心不全でこの世を去った。
　父は会社で管理職をしていたから、普段仕事で忙しかったはずなのに、亡くなる１月前頃から「仕事が暇になったから」とこうした行事に家族そろって参加するようになった。
　ひょっとして虫の知らせがあったのかもしれない、と琳子は思った。
（父さん、あのとき、虫の知らせがあったの……？）
　元気そうだったのに。
　そんな暇があったら、病院に行けば良かったんじゃないだろうか……
　そしたら、今も一緒にいられたんじゃないだろうか。
　そんなふうに思えてしまって、琳子は頭からその考えを振り払った。
　いくら考えてみても、父の気持ちはわからない。時間を巻き戻すことはできない。
「わたあめ食べたい」
　奏子に言われて、琳子は我に返った。　
（今は父さんの代わりに、私がしっかりしなきゃ）
　
　花火大会の会場に着いた。
　迷子にならないよう、綿あめを食べている妹の手を放さずに、空に咲き誇る花火を見る。
（あの時と同じ花火なのに、今は何もかも違ってしまって）
　そんなことを思った時、一瞬、あじさいの花が咲いたような幻を見た。
（あれ？）　
　突然視界がぼやけた。何かに滲んだようになって。
　それからはらり……と、頬を涙が伝った。
「え？」
　突然のことに戸惑いながら、でも涙は止まらなかった。
「おねえちゃん、どうしたの？」
　奏子が不安そうな顔をする。
「なんでもない、大丈夫……」
　そう言ったものの、涙は止められなくて。
　琳子は気づいてしまった。
　胸にぽっかりと空いた穴に。
　花火が美しいほど、空の闇は濃くて。
「ウッ……うわーん！」
　そんな姉につられて、妹も声をあげて泣き出した……。
「どうしたの？」
　静かに涙を流しながら琳子は尋ねた。
「だって、おねえちゃんが泣いてるから……」
「だからって……ううん、お姉ちゃんが悪かったわ」
　琳子は手の甲で涙をぬぐった。
（泣いてちゃだめなんだ）
「もう大丈夫、お姉ちゃん泣き止んだよ」
「ほんと？」
「うん。お腹空いたね。奏子が泣き止んだら何か食べに行こうか」
「……わたし、もう泣いてないよ」
　奏子の笑顔を見て、琳子も笑った。