堕ちた雨の少女｜リアクション

堕ちた雨の少女

　ゲームセンターのダンスゲームエリアにいる少年と金髪の女性。
　少年――御剣刀は緊張していた。
　なにせ、目の前にはわがままボディを誇る金髪紅眼の女性がダンスゲームをプレイしているのだから。
　彼女は両膝下から黒い鱗に覆われた恐竜のラプトル種を思わせる足ではあるが、巧みな足遣いで装置を壊す事なく遊んでいる。
　その鋭い足先の爪も機器を傷つける事はない。
　彼女が体を翻させる度にたゆんたゆんする魅力的なボディ、露出の高い衣服。長い金色の髪。
　いつもと違い和装ではなく、現代風の洋装に着替えている点も彼をどぎまぎさせる要因である。
　彼も武人の心得を持つとはいえ年頃の青年。こういった状況には慣れていない。
　ダンスゲームを終えた女性――ツクヨは実に楽しそうである。

「あひゃはっ！　なかなか面白いゲームでしたねぇっ！　おやおやー？　あっちにも色々あるんですねぇー？

　そういって彼女の興味は複数の景品が入った大きな箱型の物体に注がれる。
　異世界の者である彼女にとって見るもの全てが珍しいようだ。

「このアームがついた不思議な機械は何ですかァ？」
「ああ、それはＵＦＯキャッチャーって言ってな。お金を入れて、中の商品をそのアームで取るんだよ。そうすれば取ったものが貰える」
「へぇーっ！　景品があるのはいいことですねぇーっ」

　ツクヨはいつもの狂気的な笑みではなく楽しそうな笑顔を御剣に向け、首を少し傾けた。それはまさにおねだりポーズである。

「ひとつ欲しいのですけれどぉ……ツクヨですと壊してしまいそうですしぃーお願いできますかぁ？」

　顔の可愛さもさることながら動く度にその零れそうな双丘の揺れに目を奪われない様に理性を律する御剣は少しぎこちない動きで了承する。
　お金を投入し、彼はボタンを操作してアームを動かした。
　ふいぃーん、ふぃいーんと独特な音声を鳴らしながら動くアームは目標物の前でぴたりと止まる。

（角度良し、位置良し……今だッ）

　すーーっと御剣の操作で下りていったアームは見事、大きめの猫クッションのタグをアームに引っ掛けた。
　そのままふらりふらりと戻っていき、クッションは彼らの物となった。
　御剣はなんとかゲットできた事にほっと胸を撫で下ろす。

「わぁーふかふかですねぇっいい手触りですよぉーっ、あひゃはっイザナに自慢できますねぇっ」
「ははは、気に入ってくれて良かったよ」

　少女の様に満面の笑みで喜ぶツクヨに御剣も釣られて自然と笑顔になった。
　自宅に送るからとスマホのようだが何か違う機械でどこかに連絡するツクヨを見ながら御剣は思う。

（異世界での戦闘もいいが……こういうのも、アリかもしれないな）

　彼女も戦いだけでなく、こうして普通に笑うことができる。
　それが確認できただけでも彼は少し嬉しくなるのであった。
　そこで彼のスマホが鳴り、敵が現れたとの連絡が入る。
　楽しい時間が終わり、戦いの時間が訪れた知らせである。
　日も落ち、辺りは薄暗くなっていた。

「なぁ、ツクヨ……頼みがあるんだ。今、寝子島にはフツウを壊しちまう奴が暴れてる。できれば、君の力を借りたい」

　真直ぐな瞳でそう問いかける御剣にツクヨはいつもの狂気的な色を宿した笑顔を向ける。
　それは彼女の中で戦闘のスイッチが入った証でもあった。

「いいですよぉ、あんないいものもいただけましたしぃ……あひゃはっいい運動になりそうですからねェっ」

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