好き好き！大好き！？｜リアクション

好き好き！大好き！？

　街中に桐島義弘先生の姿を見留めた宮祀智瑜は、すぐにその瞳を煌めかせた。
　だって、ちょうど、「会いたいな」と思っていたところだったのだ。
（何だか、運命を感じちゃいます）
　なんて、乙女らしいことを考えながら、智瑜は、
「義弘先生！」
　と、大好きな人の名前を呼んで、駆け出した。
　うっかり転びそうになって桐島先生の胸に全力ダイブしかけた智瑜を、
「っ……宮祀、もう少し落ち着いて行動するように」
　と、桐島先生は、両の手でしっかりと受け止めてくれた。
　言い様こそ厳しいが、智瑜を支えるその手は、存外優しい。
「えへへ、ごめんなさい！　ありがとうございます！」
　と、智瑜は笑った。
（クールな姿もカッコいいです）
　なんて心の中では思っているのだが、お利口さんのお返事である。
　と、その時だ。
　桐島先生の髪に、ふわり、桃色の花びらが舞い降りたのは。
「あ、先生……」
「――好きだ、宮祀」
　花びらのことを教えようとしたのを、他ならぬ桐島先生の声が遮る。
「へ！？」
「もう、この気持ちを抑えられない。宮祀、私の愛を受け止めてはくれないか？」
　熱を帯びたような眼差しが、知的な眼鏡の向こうから智瑜を捉えていた。
　自然、どきどきと跳ねる智瑜の胸。
（先生も、運命感じてくれてたのかな？）
　ぽっと、頬が火照るのを感じる。
　好きな人からの愛の告白。
　これに恥じらわずに、いつ恥じらうというのか、である。
　智瑜は顔を上げると、きらきらとした瞳で桐島先生を見つめた。
「本当に本当ですか？」
「ああ、誓ってもいい」
「私も、先生のことが大好きです！」
　嬉しさのあまりぎゅっと抱きついても、叱責が降ることはない。
　どころか、当然のように、ハグを返されてしまった。
（し、幸せすぎて死んじゃいそう……！）
　なんて、ときめきに胸を躍らせていたところに、
「……宮祀」
　遂に遂に、口付けが零されようとしていた。
　胸のどきどきを抱き締めながら、目を閉じ、胸に手を当てる。
（心臓の音がうるさいです）
　頬に、唇が触れようとした、その瞬間。
「……宮祀？」
　また、名前を呼ばれた。
　しかし今度のそれには、甘い響きはない。
　どころか、どこかいぶかしむような色が乗っているような……。
　智瑜は、ぱちりと目を開いた。
　桐島先生は、智瑜から、もうすっかり身を離している。
　その髪からはらりと落ちた花びらが溶け消えるのを、智瑜は見た。
「？　私は、何をしていたんだろうか……？」
「な、何を、じゃないですよ！　さっき告白してくれたのは嘘だったんですか？」
「告白？　ちょっと待て、何の話だ！？」
「とっても喜んでたのに……」

「義弘先生の……ばか」
　ちょっと拗ねた声を出す智瑜。
　勿論、怒っているのだ。
（なんとなく、薄々は神魂のせいって気付いてるけど……）
　だって、冷静に考えたら、桐島先生は、例え心持ちがどうあろうと生徒に告白するようなタイプではない。
（でも、好きな人に告白されたら、そんなこと全て吹き飛んじゃいますよ！）
　智瑜はまだ怒っている。だから、
「おい、宮祀。何故いきなり機嫌が悪いんだ」
　と、ただでさえ事態が飲み込めていない桐島先生は、狼狽している。
　智瑜は、唇を尖らせた。
「何ででしょうね。この後一緒に過ごせたら、怒ってるのも消えると思いますけど」
「は？　一体、何がどうなって……」
「いいから！　先生、買い物付き合って下さいね！」
　歩き出せば、どこまで付き合ってくれるのかはわからないが、桐島先生の足音も付いてくる。
　智瑜の勢いに気圧されているのと、たぶん、状況が知りたいのだ。
（次は、神魂の悪戯じゃなくて、本当に先生から告白してもらえるように頑張ろう）
　と、智瑜はすたすたと歩を進めながら、胸の内に拳を握った。

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