好き好き！大好き！？｜リアクション

好き好き！大好き！？

「あれ？　あおいさん？」
　呼べば、くるりと振り向く、愛しい人。
　その双眸に鴻上彰尋の姿を捉えて、七夜あおいは向日葵のように笑った。
　すぐに彰尋の前まで駆け寄ってきて、
「こんにちは、彰尋くん。どこか、おでかけ？」
　と、小さく首を傾けるあおい。
「うん。夏休みだし、ちょっと遊びにきた感じ」
「私も私も！　昨日から、出掛けるの楽しみにしてたから、綺麗に晴れて良かったなって」
「俺も、晴れて良かった」
　あおいの言葉を、繰り返す。
　空が雨模様だったら、出掛けるのはまたにしてしまったかもしれない。
（そうしたら、この笑顔は見られなかったわけだし）
　なんて、彰尋は密やかに思うのだ。
「彰尋くんは、この後どうするの？」
「えっと……夏服のセールとかやってないかなって出てきたから、キャットロードでも覗いてみようかな」
「わあ、いいね！　私も、実はセール狙いなんだ」
「じゃあ……一緒に行く？」
「うん！　行く行く！」
　かくして、２人は並んで、キャットロードまでの道行きを共にした。
　季節外れの桃色があおいの髪に舞い落ちたのは、ちょうどその時。
「……あおいさん？」
　突然、彼女がぴたりと足を止めたものだから、彰尋はそう呼んで振り返った。
　あおいの目は、真っ直ぐに彰尋のことを捉えている。
「大丈夫？　どこか、具合でも……」
「好きだよ」
「……え？」
　完全な、不意討ち。
　小さく声を零す以外に、反応ができなかった。
　彰尋の内心の動揺を余所に、あおいはもう一度、
「私、彰尋くんのことが、好き」
　と、繰り返して、はにかむように笑った。
　今度はもう、聞き間違いだとは思いようがない。
　もしかしたら唐突に告げられたそれは、友達としての『好き』なのかもしれない。
　けれど、それでも。
　今なら君に、きちんと言えるだろうか。
　この気持ちは、届くのだろうか。
「俺も……あおいさんの事が好きだよ」
　あおいは、目を細めて微笑んでいる。
「笑っている君が好きで……ううん、それだけじゃない」
　失敗した時も諦めないところ、新しいことにも挑戦する姿。
　それから、自分の作った料理を美味しいって食べてくれるところ。
　彼女の目の前で、彰尋は、一つ一つ、想いを込めて、『好き』を声にして数え上げていく。
（本当なら、ねこまつりのあの日にこう言えばよかったのかもしれない）
　だけどあの時はまだ、直接伝える勇気は無かった。
　それに、もしもあの話を覚えていてくれていたらという期待だって、胸の内にあったのだ。
　だから。
（今、改めて伝えられたら）
　深呼吸を、一つ、する。
　彰尋は、あおいの目を、真正面から見た。
「――好きだよ、あおいさん」
　あおいが、花が咲くように、口元を綻ばせる。
　嬉しい、と彼女は言った。
　とても、幸せそうな声で。
「ねえ、彰尋くん」
「……何？」
「手、繋いでもいい？」
　指と指を絡ませて、恋人繋ぎ。
　彼女の温度が、柔らかく指に、手に、心に染みた。
「ねえ、服、一緒に選んでね？」
「……うん」
「彰尋くんのファッションショーも、楽しみだなぁ」
　彼女はずっと笑っていて、でも、その笑顔の色は様々だ。
　――ずっと側で、そのくるくる変わる表情を見ていたい。
　彰尋は、そんな想いを、胸の底に沈めた。

　魔法が解けたのは、最初の店で買い物を終えて間もなくだった。
　夢を見てたみたい、と、不思議そうに首を傾げるあおいへと、
「どんな夢を見たの？」
　と、彰尋は、少し意地悪な質問を零してみせる。
　ああやっぱり、なんて思いながら。
　あおいは僅かに目を伏せて、頬を朱に染め、「……内緒」と言った。

　それでも彰尋の荷物の中には、彼女と選んだ、新しいＴシャツが揺れている。

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