アニメ『らっかみ！』のファン感謝デー｜リアクション

アニメ『らっかみ！』のファン感謝デー

　イベント会場となった映画館にファンが続々と押し寄せる。空いていた席は即座に人で埋まり、ざわつきはステージ奥の控室にも聞こえていた。
　冬水瑛太は焦った表情で、とにかく歩いた。用意された椅子に座る余裕はない。気を紛らわせる材料を求めるように足を動かした。
　――ヤバイ。マジでドキドキしてきた。ファンの多さが、ここにいてもわかる。冷や汗が止まらないって。
　Ｔシャツの胸元を摘まんで前後に動かした。僅かな風に目を細めた。
　隅の方の椅子に座っていた篠山純一郎が組んでいた腕を解いた。ゆっくりと立ち上がって着ていたスーツの襟元を掴んで整える。その後、軽く咳払いをして瑛太に声を掛けた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「そう、なんですか？　なんか落ち着かなくて。人気アニメとは知ってたんですけど、ここまで凄いとは思ってなくて。初めての声優だし、イベント会場も大きいし、嬉しさよりも緊張が凄まじいって感じです」
「ボクも久しぶりだからね。それなりに気が引き締まるよ」
　純一郎は髪を撫で付けた。その仕草には余裕が感じられた。
「篠山さんみたいに早くなりたいです」
「ボクは君達、若手がとても眩しく見えるよ。多少の無茶は許される。今日は楽しめるイベントになるんじゃないかな。アニメキャラクターの高梨煉とは違う魅力をファンも感じてくれると思うよ」
「ありがとうございます。少し、気が楽になりました。篠山さんも志波武道の印象とは違ってダンディーですよ」
「ありがとう。そのイメージを壊さないように本番では脱がないようにするよ」
　最後はウインクで返す。
「自然体でやりますかね」
　瑛太は両肩を解すような仕草で言った。

このページにイラストを設定する