木漏れ日染め｜リアクション

木漏れ日染め

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「うぁー……今日だけ登校した日に限って、暑すぎる～」

　寝子高の校門からアスファルトの路上へ踏み出した白真白は、顔に当たる直射日光を遮るように片手で影を作りながら、思わず唸った。
　今、制服を来て学校を出ている生徒の姿は、真白ただ一人。
　とはいえ赤点の補習などでは無い。
　通常授業時、課題に取り組んだ際に借りていた本を単純に返し忘れていただけである。
　夏休みに入った事もあり、図書室も開いている日は限られている為『覚えてる内に！』と、思い立った本日に家を駆け出していたわけで。
　――　さすがにこれは、家に着く前に脱水症状になりそうだなあ。
　一見すこぶる健康体な、夏制服から肌艶よく伸びた手足たち。
　そのスカートの中の、オムツを気にするようにそっと生地の上から押さえてみる。
　過去の事故による後遺症により、誰にも気づかれぬよう身に纏っているそれ。
　近年の物は夏仕様として随分肌触りよくなったものだが、今日のような体感温度灼熱的な暑さの前では、確実に真白の体内の水分を吸いとっていて。
　蒸れるぅ。
　そう。普通の下着に比べ暑さも増し増しに感じるのだ。

「うん、潔くどこかで休憩しよう」

　普段であれば、学校の帰路での買い食いは憚られる所であるが、何分現在は夏休み中。
　先生方も非番が多いとなれば、きっと、多少、大目にみてくれるであろう。
　ポジティブに思考しては、丁度進行方向にて手招きしているように見える自販機へ、いそいそと駆け寄る真白であった。

　しっかりとスポーツドリンク系の飲料を選んでから、見つけた木陰＆ベンチにて。
　半分くらいを一気にプハァッと接種し、ようやく火照った身体がひとごこちつく。
　ふと見上げた色違いの双眸が、揺れる葉たちと隙間からキラリと覗く陽射しを捉えた。

「特殊なフィールド効果受けてる気分だ～」

　暑さにまいっていた脳も回復傾向となれば、やっぱり思いつくのは好きなカードゲームにまつわる事で。
　今、部屋のテーブルに並べたままな、組み中のデッキたちを思い返すと、視界に入る木漏れ日から何かが閃きそうな気がして、真白は楽しそうに瞳を細めた。

「カードゲームも他のゲームもだけど。
　私はシナジーを考えるのが好きなんだよね」

　カードゲームにおけるカードは、勿論レア度が高い程ステータスも大幅に高くはあるわけだけれど。
　たとえ数値は低いものでも、組み合わせるカード次第で強いカードにも勝つことが出来る。
　カードとカードが織り成す相乗効果。
　これこそが、扱う者の実力や個性を浮き立たせ、よりカードバトルというものに魅力を与えていると真白は考える。
　カードバトルだけではない。カプセルギアとて、自分が指示する戦略一つで、また共闘する仲間によって、
　たとえ同じ敵と戦ってもその場その場で局面は大きく変わるだろう。

「ネージュリェーツの近接戦の不利さも、もっとなんとか出来ると思うんだよねー」

　例えばネージュリェーツをあのカードだと置き換えてみれば……なんて、
　様々な効果を付随させるカードが、頭の中で並べられたり。
　一つのカードに、一体幾通りの組み合わせが、可能性が、眠っているのだろう。
　一番星を見つけたような輝きが宿れば、その双眸を更に鮮やかにする。

「実際にカード見てた方が早そうだなぁ。うずうずしてきた」

　早く帰ってカード弄ろうかな！　とベンチから意気揚々と立ち上がったふとその時。
　葉ばかりだと思っていた頭上に、違う形状のものが隠れているのを見つけた。
　否。今まさに現在進行形で、葉の間から次々ふわっふわっと花びらが育っていた。

「うわっ？　なになに？　これ何の木だったの？」

　驚いた表情と声をあげた真白だったが、その花を見つめればすぐに口元を緩めた。
　柔らかそうな花びらを重ね集わせた花。
　花にしては不思議な色味。青磁の肌のような淡い青。日光に照らされれば、艶めいてすら見える神秘的な秘色の花。
　暫し、緑の間に浮き上がるそんな花たちを、興味深そうに、楽しそうに眺めてから。
　ん！　何か閃きそうな気がする！
　きっと今カードを目の前にすれば、また新しいデッキが出来上がる。
　そんな予感に襲われれば、真白は花たちへ手を振って、暑い陽射しの中を元気に駆けだして行くのだった。

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木漏れ日染め

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