レッツ・スタディ！～大人も子供も学生さんも！～｜リアクション

レッツ・スタディ！～大人も子供も学生さんも！～

「修君！」
　図書室にて。潜めた声で名前を呼ばれた時、八神修は、心臓が跳ねるのを感じた。
　声の主は、振り返るまでもなくわかっている。
　七夜あおいは、ひょこり、と修の手元を覗き込んで、
「わ、さすが修君、難しい本読んでるね。ね、同席しても大丈夫かな？」
　と、小さく首を傾けた。
　ツインテールがふわりと揺れるのを目に、「勿論だよ」と修は応じる。
（今日も一緒になれたら良いな、って思ってたんだから）
　とは、胸の内だけに付け足した。
　嬉しさに、笑みが零れる。
　それまで以上に、気合も入った。

　あおいが、修の目の前の席に腰を下ろす。
「修君、それって、何の本？」
　興味を引かれたらしく、小さな声であおいが言った。
　ああ、と軽く微笑む修。
「論文集だよ。こっちは学術書」
「成る程……難しそうなはずだね」
　うんうん、と、納得したようにあおいが頷く。
　修は、受験のための勉強の他、知識漁りにもよく励んでいる。
　今日、机の上にあるのは、問題集ではなく、修の知識欲を満たす本達だった。
「難しいかもしれないけど、面白いよ。知れば知るほど、興味がさらに広がる」

「興味って、湧き水のようだね」
　言えば、「修君、詩人だね」とあおいが茶目っ気に溢れた声で零して、くすり。
　そんなあおいへと、修は、
「あおいは、今日はなにを頑張る予定なんだ？」
　と、今度は自分の方から問いを投げた。
「えっと、問題集を解くつもり。今日は、古文の苦手なところをやろうかなって」
「弱点の克服か。応援するよ、あおい」
　かくして、２人はそれぞれに、それぞれの勉強に取り組む。
　そして、暫くのあと。
「……ねえ、修君」
　あおいが、控えめな声で、再び修を呼んだ。
「ん？　どうしたんだ？」
「ここ、解説を読んでもよくわからなくって。教えてもらえないかな？」
「どれ……ああ、ここか。確かに、躓きやすいよな」
　任せてくれ、と、修は教師役を快く買って出た。
　勉強は得意だし、あおいは理解が早いので教え甲斐もある、と修は思っている。
　そして何より、あおいの役に立てるのが、修には喜ばしかった。
（それに、こうして質問してくれるあおいに、感謝もしてる）
　勉強は修にとって、基本的には孤独な活動だ。
　けれど、あおいのお陰で、それは共同活動に変わる。
　その事実は、修の心を、ふくふくとあたためるものだった。
（頼ってくれて嬉しい。だから、それに応えられる自分でありたいな）

　勉強を頑張ったら、息抜きを兼ねての休憩タイムだ。
「あおいは今、どんな料理に挑戦してるんだ？」
「ええっとねぇ、色々だよ、本当に。例えば、昨日はマーボー豆腐」
　小声で問えば、同じく小声の、しかし楽しげな声が返る。
「完成度はどうだった？」
「真っ黒になったりはしなかったんだよ。でも、信じられないくらい辛かったの」
「へえ。そしたら、大変だったな」
「うん、大変だった。次は、何を作ろうかなぁ？」
「旬の食材を生かした冷たいものは？　腐敗しやすい季節だから、日持ちがするものとか」
「ふむふむ……修君だったら、何が食べたい？」
「え？　……くずまんじゅう、かな」
「うっ、難しそう……！」
　ささやかながら楽しいひとときの中で、
（今日が、あおいにとっても、有意義で楽しい時間になると良いな）
　と、修は、そんな想いを胸に沈め、笑った。

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