学食百景　～プレミアムメニューを堪能せよ！～｜リアクション

学食百景　～プレミアムメニューを堪能せよ！～

　日増しに気温が上がっていく。
「あっつぅ……」
　伝う汗をぬぐいながら、佐藤英二は食堂を目指した。
　先日から話題を席巻しているプレミアムかき氷。
　甘党として見逃すわけにはいかなかった。
　学食はすでに大勢の生徒でごった返している。普段より女の子が目立つのは、きっとプレミアムかき氷の効果だろう。

（野々さんも、いたりするかな）

　彼女の姿を探して、つかの間周囲を見渡してしまう。
　何事も楽しむ彼女だ。きっともう、プレミアムかき氷のことは知っているだろう。

（あ、いた……）

　待機列の中に野々の姿を見つけ、佐藤の心臓がどきりと跳ねた。

　野々とは去年クラスメイトだった。
　その明るい笑顔を見るのが好きで、いつの日からか、気が付いたら目で追いかけてしまっている。彼女の明るいはつらつとした笑顔も、気さくに話しけられる今の距離感も、佐藤の胸を温かくする。
　もっとも、当の野々は佐藤のことを友人と思っているようで、良くも悪くも、距離は友人のそれからなかなか縮まらない。

「野々さん」
「あ、佐藤くん」
　呼びかけられて野々が笑顔で振り向いた。
「奇遇だね。野々さんもプレミアムかき氷パフェ食べに来たの？」
「うん、もうすっかり大評判だもんね」
「僕も今、注文した所だけど豪華満点のかき氷食べるの楽しみだよね」
「トッピングすっごいじゃん。みんなが食べてるの見て私も食べたくなっちゃった」

　話しているうちに、注文の品が届く。
　甘いもの好きの佐藤をうならせるには十分の一品だった。
　本当にこれが300円だろうかと疑いたくなるほどのクオリティだ。
　思わず笑顔になる。

「すっごいなー、何味？」
「みぞれ味だよ。野々さんはまだ注文したことない？」
「うん、食べきれるかな、こんなに……」
　じっと、野々がアイスクリームを見つめている。
　まだ使っていないスプーンをそっと彼女に手渡してみることにした。
「よかったら、味見する？」
「えっ、いいの？」
「まだこれ使ってないし、よかったら」
「わぁー、ありがとう！」

　野々はスプーンを受け取って、かき氷を口に運ぶ。
　ぱくりと食べた途端、その目が喜びに輝いた。

「わ、美味しい……！」
「ね、本当においしい」
　野々が頬を抑えて嬉しそうに頬を上気させる。

「氷すっごいしゃりしゃりしてる、すっごい美味しい……！」
「そう、この値段でこのクオリティは本当にすごいよね！」
「うんうん！」
「300円で、このボリュームとゴージャスさ。ベースのかき氷もトッピングも全部絶品で超オススメだよ、野々さん！」

　野々はちょっと悩んだ後

「うん！　せっかくだし、私もひとつ頼んじゃおっかな」

　と食堂の待機列へ向かった。

　少ししてから、イチゴ味のかき氷を手に帰ってくる。
「えへへー」
「イチゴ味も美味しそうだね」
「さっきのお礼で一口いる？」
「えっ、いいの？」
「お互い様だよ～」

　差し出されたスプーンを受けとって、どきどきしながら一口分すくいとる。
　とけたかき氷の味は、なんだかドキドキ高鳴りっぱなしの心臓のせいでよくわからなかった。

このページにイラストを設定する