学食百景　～プレミアムメニューを堪能せよ！～｜リアクション

学食百景　～プレミアムメニューを堪能せよ！～

●昼、食堂にて

　四限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。軽度の疲労感を口にしながら、生徒たちが教科書を片付け、あるいは教室の片隅に集まり、あるいは中庭に向かい、あるいは屋上への階段を上がっていく。昼休みだ。

　綾辻綾花は教科書を閉じて立ち上がった。
　人でごった返す前に、席を確保しに行かなくてはならない。
　昼休みを豊かに過ごすコツは、初動の俊敏さにあるのだ。
　少し速足で廊下を歩く。最初から走ってしまうと後で息切れしてしまう。食堂で注文するときにそれじゃ格好がつかない。

　急いで廊下を曲がったところで、ふと遠くに見慣れた顔を見つけた。

「あ、ののこちゃん」

　野々ののこの癖っ毛が元気に跳ねている。
　食堂へ走って向かっている途中らしい。

「あっ、やっほー！　綾花ちゃんも食堂行くの？」
「はい、今向かってるところです」
「じゃあダッシュだよ、ダッシュ！　今日絶対人多いから」
「えっ、どうしてですか？」

　きょとんとする綾辻の手を引っ張って、野々がまた駆けだす。ぱたぱたと足音をさせる野々を通りすがりの教師が
「おい！　廊下走ると危ないだろ！」
　と注意するも、
「ごっめんなさーい！　ちょっと急ぎなんです！」
　と元気にかわしていく。
　それに引っ張られるようにして綾辻が食堂に到着するころには、あたりは生徒でごった返していた。

「すごい、大人数ですね……」
「遅かったかな」

　野々はきょろきょろとあたりを見渡す。

「いつも多いけど、今日は特別多いみたいですね……何かあったんでしょうか」
「アレだよ、ほら見て見て」

　促されて綾辻が目をやると、夏季限定メニューの字が涼やかに踊っている。

　プレミアムかき氷パフェ。
　お値段たったの300円。

　ごくりと喉が鳴った。この猛暑の中、身体は自然と冷涼を求めている。

「気になりますね……」

　昼食を食べてしまったあとでは、きっと自分では食べきれない。
　チャンスがあるとしたら今、午前の授業を終えた直後のすきっ腹の、今しかない。

　大丈夫、勉強で疲れた頭は糖分をきっと欲しがっている。
　これは健康にいいこと。

　そんな風に自分を納得させて、綾辻は野々を見遣った。

「おいしそう……」

　昼ごはんそっちのけで食いついている。

「ののこちゃん、パフェ食べますか？」
「うんっ」

　待機列の先頭が近づいてくる。

「注文は？」
「プレミアムかき氷、ブルーハワイで……！」
「はいはい」

　学食のおばちゃんが大盛りのかき氷を渡してくれる。
　イチゴ、オレンジ、サクランボ、マンゴー。てんこ盛りのフルーツの上に、これでもかとトッピングされたゼリー、チョコレート、クッキー、生クリームにアイス、ソフトクリームたちが目を奪う。

「こ、これは予想以上……」

　やっぱり二人で分けることにしてよかった。
　綾辻は野々の隣に座って、一緒にパフェを分け始める。
　みずみずしい桃の甘味、それぞれの食材の触感。これで本当に300円かと疑いたくなるようなクオリティで、互いにスプーンを停めることなく食べ進めていく。

「あいたたた」
　野々が不意に頭を押さえる。
「慌てて食べちゃ痛くなりますよ」
「うぅ～」
　しょんぼりする野々の様子を気遣っていると、野々が綾辻をみて笑った。
「あはは、舌の色すごいことになってるよ」
「えっ」
　恐る恐る、野々に舌を出して見せる。

「舌青いですか？」
「うん、すっごい綺麗」
「そんなぁ」

　食べ終わるころにはすっかりおなかがいっぱいになっていた。
「頼んでみてよかったです」
「ねー、おなかいっぱい」
　野々と綾辻は二人で満足げに笑い合う。

　まだまだ暑い夏が続く。
　きっとまた一緒に来ることもあるだろうと、綾辻は野々の笑顔を見つめていた。

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