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　恵御納 夏朝さんは、何気なく立ち寄った公園でギアバトルに興じる子供達を見かけました。
「……アマネちゃん、一緒に遊んでみる？」
　夏朝さんが自分のギアであるアマネにそう訊いてみます。


なんとなくアマネは頷いた気がしました。

「こんにちは……『かさねこ』です。こっちは、ギアのアマネちゃん。僕達も一緒に混ざりたいけど、大丈夫かな？」
　なので、夏朝さんは早速水上・水中戦に興じる子供達に声をかけました。
　そこに、同じくギアバトルに興味を惹かれた仙藤 蒼さんと白 真白さんもやってきます。


「ねぇ、私も参加したいんだけど」

　偶然に公園に立ち寄った蒼さんでしたが、もちろん相棒のDiablo Azulは一緒に連れています。


「水上戦ね。面白そうじゃん。それじゃ、私も参加させてもらおっかな」

　真白さんも相棒のギア、ネージュリェーツを手に、ギアバトルへ参加を希望しました。
「ん？　ねーちゃん達もギアマスターなの？　よし、じゃあ、おれ達の【青】チームに入ってよ！　おれ、ショータっていうんだ、よろしくな！」
　元気良く言った少年――年の頃は小学４年生くらいでしょうか――の言葉に、3人のお姉さん達は（若いっていいなぁ）というような笑みを浮かべます。
「うん、よろしくね。僕も青がいいなって思ってたから、ちょうどよかった」
　夏朝さんは頷き、水に濡らさないように注意しながら、Nyaphone（スマホ）を操作。
　アマネは、左腕の円輪型武器『あまねし妖精の舞踏』（読：フェアリーロンド）を使い、浮き輪の上をぴょんぴょん飛び跳ねつつ、近・中距離から【赤】チームのギアに攻撃を仕掛けます。
「私も【青】がよかったからちょうどいいわ。行きなさい、Diablo Azul！」
　蒼さんは、浮き輪の上にDiablo Azulの両肩の240mm中距離用無反動キャノン砲で水中の敵に攻撃を開始。
「私も【青】って気分だったから、なんだか幸先がいいね。攻撃は二人に任せて、私は援護にまわるよ」
　真白さんはネージュリェーツを軽快に移動させると、要所要所に右腕のやどりぎあーむでトラップを設置していきます。
「おい、ショータ！　さっきからそっちばかり仲間を増やしてズルいぞ！」
　と、そこでショータ少年に怒鳴ったのは、対戦相手の赤チームに所属するまた別の男の子。
「うるせー！　ユーゴこそ、そのノーメン、外せ！　反則だろ！」
　と、ショータ少年は、ユーゴという名前らしきその少年に怒鳴り返し、一人の少年に視線を移します。
　そこにいたのは――。


「ノーメン……」

　なるほど、確かにノーメン（能面）のような無表情をした、けれどもちょっとだけショックを受けているようにも見える、牧 雪人くんでした。
　さて、そのとき数の上で不利だった【赤】チームに、新たな参加希望者が現れます。
「チーム戦か！　私も参加したいぞ！　もちろん、【赤】チームでだ！」
　そう元気よく言ったのは、煌 白燕さんでした。
　彼女が赤にこだわるのには理由があります。　
　というのも、彼女のギア――サンゴクナイトのモチーフである三国志には、赤壁の戦いというとても有名な戦いが出てくるからです。
「赤壁の戦いで勝利したのは呉と蜀の連合軍だ。魏軍は大敗をきすことになるのだが……そこから学ぶものもあっただろう。ともかくあの戦いは伝説的だったのだ！」
　と、熱く力説する白燕さん。
　ですが、
「あー、なんかよくわかんないけど、とにかくよろしくな！」
「よくわからないだと！？」
　カプギアのことしか頭にないユーゴ少年には、白燕さんのトークは少し荷が重すぎたようでした。　
　そして、もう一人、【赤】チーム参戦に名乗りを上げたのが古尾 桐子さんです。
「そういやトルーパーはまだ水中で戦わせた事がないッスね」
　桐子さんのギア――トルーパーは脚部のローラーを使った高機動戦闘を得意とする地上戦型。
「今の装備でどんな感じに戦えるのか試して合点したいから混ぜてッス！」
　瞳に好奇心の光を爛々と輝かせて、桐子さんは迷わずにトルーパーを水中に突入させます。
「おー、ねーちゃん、度胸あるなー。よし、水中は任せた！」
「合点承知ッス！　って、やはり水中だとローラーダッシュが上手く利かないッスよ！？」
　悲鳴を上げる桐子さんのトルーパーに静かに狙いを定めるのは、水上の青い悪魔と化した蒼さんのDiablo Azulでした。
「ふふ。そんな動きじゃ、狙い撃ちされちゃうよ？」
　240mm中距離用無反動キャノン砲がトルーパーを目掛けて発射！
「ひゃあっ！？　あ、危ないところだったッスよぉ……」
　当たる直前で緊急回避してトルーパーの姿を確認して、胸を撫で下ろします。
　が、そこに別の【赤】チームのギアが殺到。
　水中に、陸戦仕様のギアで堂々と突っ込んでくるトルーパーは、水中仕様ギアを持つギアマスターにとっては良い的も同然に思えるのでした。
「そこのポンコツ頂き！」
「いや、あいつは俺が貰う！」
「うひゃ、また来たッス！　ていうか、うちのトルーパーは量産型ではあってもぽんこつじゃないッスよ！」
　殺到する攻撃を水に制限された動きでなんとか回避しながら、ヘヴィマシンガンで反撃する桐子さん。
「よし、これで水中の囮役はバッチリだな！」


「う、うちは囮だったッスか！？」

　ガッツポーズをとるユーゴ少年に叫びつつ、桐子さんはローラーダッシュとヘヴィマシンガンを使った牽制を続けます。
　まさにロボットの如く、困難な淡々とミッションをこなすトルーパーの姿はまさに量産型の鑑というべきものでした。
「そっちの鎧のギアのやつは、俺と水上で戦闘だ！」


「うむ。行くぞ、サンゴクナイト！　我らには優秀な軍師殿がついているようだ」

　かくして、プールの水面の上を無数のギア達が円を描くように動きまわり、さながらバトルは水上の舞踏会の様相を呈していくのです。