天を狂わす龍の声｜リアクション

天を狂わす龍の声

　莉鳥は目の前に現れた牙と刃を持つ無数の魚、竜魚と対峙してしていた。莉鳥が動こうとした瞬間、まるで撃ち出された弾丸のように飛び込んで来る。足元を狙われれば、バックステップを踏む、ボディなら横へ避け、頭なら体勢を低くしながら、物陰へと隠れた。あまり目は良くないのか、莉鳥の姿が消えたことで戸惑っているようだ。
　莉鳥は指先に気を集中させ、肩にかけていた鞄を下ろす。壊れやすい物や貴重品をポケットに移すと、
「駆逐してあげるわっ」
　鞄を思い切り投げた。
　龍魚達のぎょろっとした目がそちらを見やる。
　莉鳥は素早く飛び出して、目を閉じる。先程から溜めていた分と今貯める分を合わせる。こちらに気づいた龍魚達が一斉に莉鳥を狙うが、指先に貯めた電気を一気に解放した。
　数十匹の龍魚がぼとぼとと地面に落ちる。しかし、まだ生きているものもいる。
「っ！」
　莉鳥は目を閉じて指先に集中するが、間に合うだろうか？
　お、その時、足音がして、莉鳥の前に出た人物が一人。
「大丈夫か？」
　豪だった。龍魚は彼の持っていた看板に弾かれ、空へと飛んで行く。
「ええ、助かったわ」
「これ、アンタが一人でやったのか？　凄いな」
　一緒にいた士が感心したように言う。
「そんなことより、お願いしてもいいかしら？　この細い通りじゃ不利なの。広いところへ移動したいのよ」
「おう、任せろ」
　三人は豪の看板を盾に駆け出した。

　竜巻へと近づくにつれ、舞っていた雪が雨にかわり、風がさらに強くなった。
　先導していた修は何かに気づいて歩調を緩めた。釣られて夏朝と月も。
「八神さん？」
　月が声をかけると、修が前方を指で差した。
「予想はしていたが、簡単には突入できなさそうだ」
　向かってくるのは龍魚や二足歩行の蛙のような、水妖仙というモンスターだった。
　夏朝が眉を寄せる。
「数が結構多いよね？」
　一体一体は一撃で倒せる程度だろうが、相手は数えきれないほどだ。
「第一陣は私がなんとかします。道が開いたら一気に抜けていって下さい」
　月はそう言って二人の前に出た。
　先頭を切って向かい来る龍魚を見据えると、近くの民家の塀へ視線を向けた。凄まじい風で崩れたブロック塀に鋼糸を巻き付ける。
「行きます」
　今度は月を先頭に駆け出す三人。
「えぃっ！」
　月が鋼糸を操る手に力を込めた。巻きつけたいくつものブロックで飛んでくる龍魚を叩き落とし、さらにのしのしと迫ってくる水妖仙はまとめて絡めとる。
「走って下さい！」
「ありがとう、常闇」
　修と夏朝が月を追い抜いて行く。月は絡め取った水妖仙を締めて切断し、二人の後を追う。
「常闇さん、後ろから援護してね」
　そう言って走りながら、夏朝は猫シールを取り出した。服内側の肌に張り付け、ろっこんの力で体を軽くした。加速し、同じく貼りつけた傘をこん棒代わりに迫りくる水妖仙へ向かって行く。
「たああっ」
　夏朝は傘を振りかぶって重くし、水妖仙の頭へと次々に振り下ろす。
　修は夏朝を追いかけながら道の端の塀へ視線を向けた。精神集中、ろっこん『分解』を発動する。この先、竜巻へと続く道に沿う塀をその範囲とした。
「二人とも、後ろへ飛べ」
　修の指示に二人が従った瞬間、塀が分解され、水妖仙達の上へと瓦礫がのし掛かった。一網打尽だ。
　三人は瓦礫の上を、竜巻へ向けて駆け出した。

　

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