土用のニョロニョロ！｜リアクション

土用のニョロニョロ！

　修は準備を整えて川へやってきました。
　ウナギの場所を確認し、それより下流で仕掛けをします。
「延（はえ）縄漁法だ」
　修は１本の幹縄に多数の枝縄をつけ、枝縄の先端に釣り針をつけたものを広げます。
　対岸へ幹縄を渡し、縄は棒で河川敷に固定します。
　所々から下がる枝縄に針と餌をつけました。これで完了。
「数時間待てば良いかな」

「うへー、マジでウナギがいっぱいいやがるな！」
　川についた流は歓声をあげました。
　近くには丑の日の幟がひるがえり、魚屋さんが準備万端整えています。
「しかも取れたてのウナギを調理してくれる人までいるってきたら、こりゃつかみどりやるっきゃねーな！」
　川に入った流の足元には、たくさんのウナギたちが泳いでいます。
「へへ、こんだけたくさんいるなら俺でも余裕でつかめそうだな！　うりゃー！」
　手近な一匹を掴み取ろうとした途端。
「……ぬわーーーーー！」
　びりびりー！　と謎の衝撃に撃たれウナギを取り落としてしまいました。
「な、なんだ今のビリビリした衝撃は？！」
　呆然と立ち尽くす流は思い至りました。
「ま、まさか……この中に電気ウナギもまじってるのか？！　くそぅ、こいつはとんだトラップだぜ……」
　ウナギの大量発生はおそらく神魂の影響でしょうから、そういうこともあるでしょう。
　しかしこんなことで諦めるわけにはいきません。
「だが！　俺のウナギ食べたい欲はこの程度のビリビリで負けたりはしない！」
　雄雄しくも再びつかみ取りに挑む流。
「ぬわーーーーーー！」
　しかし再び、ビリビリーと電気ウナギにやられてしまい、ほうほうの体で水から逃げ出し川原にへたり込みました。
「電気ショックにはカテナカッタヨ……」

　ウナギがかかるまで何をしようか、と修は辺りを見回していました。
　少し上流側に流の姿がありました。
　そしてさらに上流に目を向けると、迫ってくる黒い波と人の姿。
「なんだあれは」
　そこに立っているのが友人の夏朝であることと、黒い波の正体に気づくのは同時でした。
「恵御納！」
　修は駆け出しました。
　夏朝はウナギウェーブに向かっていきます。
「あえて突っ込んで出来るだけ多く捕まえる！　来いウナギ波ー！」
　大量のウナギの波に押し流される寸前、修は夏朝の腕を掴み引っ張りました。
　　
「び、びりびりしないウナギを探そう……」
　回復した流は、再び川に入っていました。
　おそるおそるウナギを掴みます。
「お、こっちはビリビリこなさそうだ。ウナギゲットだぜ！」
　喜んだ流でしたが。
「……ん？　なんかいきなり暗くなったような……」
　気づいた時には、それはそこまで迫っていました。
「げぇ！　いつの間にかウナギの波が押し寄せて……ぬわーーーーー！」
　流はあっという間にウナギウェーブに呑まれてしまったのでした。

「大丈夫か、恵御納」
　どうにか夏朝を助け出した修は息を落ち着かせながら尋ねました。
「うん……ごめんなさい、ありがとう」
　そう言った夏朝の両手には、ウナギが一匹ずつ。
「お魚屋さんに頼んで、さばいて調理してもらおう。八神くんもどうぞ」
　そう言った夏朝に修は微笑みました。
「俺は延縄を仕掛けてあるんだ。恵御納がウナギごとかかる前に止められてよかったよ。……あっちは自力で脱出できたようだな」
　修の視線の先には、悔しがる流がいました。
「くっ……波にのまれてつかんでいたウナギを手放してしまった……」
「水守君、大丈夫？　あれ、背中に……」
　心配して声をかけた夏朝は、流の背中が動いているのに気づきました。
「ん？　なんか背中ににょろにょろした感覚が……」
　くすぐったさに慌てて服を脱ぎながら、逃げられないようにそれを押さえ込む流。
「ラッキー！　背中にウナギがはいってやがったぜ！」
「よかったね、水守君」
　夏朝が言い、歓声を上げてウナギを持ち上げてみせる流の様子を修がデジカメに納めます。
「びりびりしないウナギで助かった……よーし、それじゃこいつをかば焼きにしてもらって土用の丑の日を堪能だぜ！」
　すっかり上機嫌で流は言うのでした。

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