土用のニョロニョロ！｜リアクション

土用のニョロニョロ！

「暑いよな……こう暑いと、ばてるな……これが地球温暖化ってやつか？」
　北里雅樹は、元カノの椎井莉鳥と歩きながらつぶやいていました。
「そうね……」
　無愛想な表情で、莉鳥は雅樹のテキトー極まる話を聞き流しながら生返事をしていました。
（なぜ私は元カレと一緒に並んで街を歩いてるんだろう）
　目的があるわけでもないのに、腐れ縁の幼馴染とはなんとなく会ってしまうのです。
「冷房を求めて出かけても、暑い中帰れば結局汗だくだし……理不尽だ」
　いつも通り眠そうな、やる気のない顔でぶつぶつ言っていた雅樹ですが、ふと視線を遠くへ向けました。
「なんか向こうのほう騒がしいな……行ってみるか」
「川？　暑いから子供が遊んでるんじゃないの」
　気のない返事をする莉鳥ですが、川のほうへ近づいた雅樹は目を見開きました。
「いや……って、ウナギ！？」
「はぁ？」
　いきなりの雅樹の言葉に、聞き返しながら莉鳥は元カレを追いました。

　そこに広がっていたのは……川を覆わんばかりの黒々としたウナギの群れ。
「どうなってんだ？　天変地異の前触れか？」
　呆然としている二人に、ねじりハチマキの魚屋のおじさんが声をかけました。
「らっしゃい。捕まえたら格安で捌いてやるよ」
「『ウナギのつかみ取り大会』的な光景ね」
　莉鳥は冷静に言いましたが、雅樹の目の色は変わりました。
（格安でウナギ……こういうときでもないと食べれるもんじゃない。チャンスは逃さない！）
　それまでのやる気のなさそうなテキトー風味はどこへやら、がぜんやる気満々モード。
　そんな元カレの様子をジト目で見る莉鳥。
「どうするの？」なんて聞きません。
　この後の元カレの行動はわかりきっているから。
（……猫鳴館の住民は、こういう機会でもないとウナギが食べられないものね）

「おじさん、何かウナギを入れる容器はないかな？」
　早速雅樹は魚屋のおじさんに声をかけ、容器を受け取って川へ飛び込みました。
「私もやるわ」
　ただ見ているだけでは面白くない、とばかりに莉鳥は宣言します。
「お嬢ちゃん、ウナギを捕まえるコツを教えてやるよ」
　魚屋のおじさんが親切に教えてくれました。
「ええと……人差し指と薬指の上にうなぎを乗せて、中指をその上にかぶせる様に、ね」
　本当にこれで捕れるの？　と思いつつ、莉鳥は川へ入って行きました。
　さっそく試してみると。
「あ、取れた。けっこう簡単ね」
　元カレのほうを見ると。
　欲の皮を突っ張らせウナギを捕まえては、魚屋からもらった容器に詰めています。
（なんというか力任せというか、テキトーというか……それでもそれなりに捕まえてるわね）
　
　順調にウナギを捕まえていた雅樹ですが。
（ん……なんだか、気分が）
　禍々しい顔のウナギと目が合った時、何故か黒い気分が湧きあがってきました。
　横目で、チラリと元カノのほうを見ます。
（……）
　昏い思いに突き動かされるまま、雅樹は悪魔ウナギを手に莉鳥を見つめました。
（元カノなんだ。ちょっかいだすくらい、いいよな？）
　そんなこととは知らず、莉鳥は熱心にウナギを捕まえています。
　瞳に黒い炎を宿した雅樹は、じり、じりと莉鳥に近づいていきます。
　ついに雅樹は莉鳥に、手を伸ばし……
「？　どうかした？」
　次の瞬間、莉鳥が振り向いて雅樹を見ました。
「何でもない……、ウナギ、料理してもらおうぜ」
「そうね」
　莉鳥の声を聞いた途端に、雅樹の中で渦巻いていたもやもやした闇は四散していました。
（……俺は何を？　気づかれてない……良かった）
　全身から汗が噴き出るのを感じながら、雅樹は魚屋さんのほうへ向かうのでした。

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