夢で叶える夢｜リアクション

夢で叶える夢

「私の夢が叶うんですか？　一体どんな夢が体験できるんでしょうか？」

　夢と思われる空間でこの場所の説明が書かれた立て札の前に立ち、御巫時子はそう一人呟く。
　果たしてどんな夢が自分の目の前に現れるのかと時子が楽しみにしていると、今までいなかった筈の五十嵐尚輝が突然現れる。
　これは夢が見せる幻なのか、それとも夢によってここに連れて来られた実際の尚輝なのか。

「おや、御巫さん」
「先生……」

　何となく。何となくではあるがこの目の前にいる尚輝が現実の尚輝である事を時子は理解した。
　それは理屈ではないのだが、もし無理やりに理屈をつけるとすれば恋する乙女の直感という事になるだろう。
　少しだけ混乱していた頭もすっかり落ち着いた時子はあの立て札の事を思い出し、尚輝へと提案をする。

「先生も一緒に夢を体験しませんか……？」
「ふむ。夢の体験、ですか？」
「はい。ここは何でも、夢が叶う夢であるそうです。やってみたいなと思っている事とか実際には無理そうだと思ってる夢とかを叶える事が出来ると」
「なるほど……」

　そうして尚輝に説明をしながら時子は自らの夢と尚輝の夢に思いを馳せる。
　時子は小さい頃、学校などで夢について書く時、お嫁さんと書いていた事を思い出す。そして、それは今でも変わっていないのだ。ただ、今では誰のお嫁さんになりたいか具体的なところまで思い描いているというだけで。

「あら……？」
「おや、これは……」

　気付けば時子は純白のウェディングドレスに身を包み、周囲も教会へと変わっていた。
　ふと傍にある鏡を見てみれば、結婚式の新婦がしているような薄い化粧もされている事に気付く。

（これは、もしかして私の夢が反映された……？）

　となれば、もしかしてと尚輝の方を見れば、時子の予想通りに尚輝がタキシード姿になっていた。
　時子はきっと似合うと思っていたのだが、実際に見てみればそれは間違っていなかったと思った。

「あぁ、夢だとしても幸せです」

　そう言って微笑む時子の姿はとても嬉しそうであった。

（尚輝先生は結婚についてどう思われてるんでしょうか？　結婚願望はあるんでしょうか？）

　はっきり言えば時子からすればそれはとても気になるところだった。
　ただ、それをこの場で聞いても良い物かどうか解らない。それにここの記憶が残るのかどうかも解らないのだ。

「先生。私はいつかは結婚したいと思ってます。近いか遠いか分かりませんが。ですから、その時の為に付き合って頂けますか？」
「解りました。そういう事であれば」

　自らの想いは日に日に強くなっていると時子は感じている。
　だが、それをぶつける時は今この時ではないとも思っているのだ。

（どうかご縁がありますように……）

　そう願いながら尚輝に手を引かれながら教会の中を歩く時子。
　裾が長いので踏んで転ばないように気を付けながら歩いているわけだが、これはとても貴重な体験だと感じていた。

（未来のドレス選びの参考になりそうですね）

　そうして歩いていると最初にあった立て札と全く同じ物が教会内に立っていた。

「あら？　これは……」

　そこにはその場でくるっと回るとウェディングドレスを変更する事が出来ると書いてあった。
　果たしてこれは一体誰の手によるものなのか？　良く解らないままに試しにその場でくるっと回ってみれば本当にウェディングドレスが別の物へと変わる。

「これは……良いですね。先生はどれが似合うと思いますか？」

　これ幸いとばかりに時子はくるっと回っては様々なウェディングドレスに着替え始める。
　尚輝の好みと自分に似合う可愛いウェディングドレスを模索する為に。

「Aラインのドレスも素敵ですがお姫様のようなプリンセスラインも可愛いですね」

　それは時子が満足するまでの間、続けられたと言う。

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