迷子はこちら、親御はどちら？｜リアクション

迷子はこちら、親御はどちら？

　夏である。
　海である。
　横には水着姿でこっちに笑いかけてくる、七夜あおいである。
　すなわちこれ、八神修にとっての正義である。

　薄青い布地に、可愛らしいフリルがあしらわれたワンピース。
　日差しよけに薄手のパーカーを羽織っているのが少し残念――ではないということにして、水着姿の七夜あおいはとても眩しくて直視しづらかったし、そこに笑顔が重なれば、尚更のことだった。

　プールの時の水着姿にもドキドキしていたけれど、普通の水着姿のあおいもまた、良い。
　女友達と遊びに来る予定だったのにドタキャンされたんだー、というあおいと会えた、素敵な偶然に感謝だ。なお、八神はといえば探検部の招集に応じての海であったが、偶然の女神はきっちり捕まえておくべきだろうと、当初の目的は、どこかへそっと置きざりにすることにしたのだった。

　気を抜けば崩れそうな自らの頬を、脳内で複数回しばき、八神修が波打ち際へ駈けていこうとするあおいを追いかけかけたところで、ソレは来た。
「ぐぅぁっ！？」
　柔らかな砂浜に顔面からダイブしかけ、腹ばいになったまま、衝撃を受けた方をみやれば、まだ三、四歳程度の男児が、泣きながら八神の膝の裏に座っていた。

「お父さんやお母さんはどうしたの？」
　あおいが目線をあわせるようにしゃがみこんで尋ねると、今度はそちらへ抱きつき、「ままー！」と呼ぶ。
　なんと羨ま――違う。

「おちついて、ね？　ママじゃないからねー？」
　――じゃないよね？
　心の中の声を漏らさないようにしつつ、男の子を落ち着かせにかかるが、今ひとつうまくいかず。

「よしよし、パパもママもいなくなって怖いねぇ」
　あおいが手伝いとばかりに、背中を軽く叩いてあげながらあやしにかかってくれた。

　一人だと、もっとドタバタしていたであろう。
　「あおいがいてくれてよかった」、としみじみ感じ入る八神だった