【終業式】負けられない！　夏休み前哨戦！！｜リアクション

【終業式】負けられない！　夏休み前哨戦！！

「自分でできる範囲は自分でしましょう。きれいな部屋が幸運の鍵……」
　綾花は、とりあえずそのメモをなくさないように持っていたハンカチに挟んでポケットに閉まった。
「これが、久保田先生の落とし物かい？」
「はい。間違いありません」
　珪は「よかったね」と言ってそっとほほ笑む。それに少し頬を赤く染める綾花だった。
「そっちは見つかった？」
　夏朝がひょっこりと現れて問いかける。彼女の後ろには香水の瓶を持った瀬莉の姿が。
「ええ、見つかりましたよ」
　綾花の言葉に、２人も安堵した。
　だが、落書きの魚は止まらない。ここからは、掃除の時間だ。

＊　＊　＊　＊

「こんなかんじで……」
「うん、よく描けてる」
　廊下では追い込み漁の準備が行われていた。丸美（ほんわか少年）と彰尋がそれぞれ網と堀を描いている最中だ。他の面々は魚以外の動かない落書きを先に消している。
　最初は落書きしてはいけないのではないか、と考えた２人であったが今は緊急事態。そして先生も近くにはいない。やるなら今である（実は珪が来ているが気付いていないし、珪自身もこんな作戦が建てられているなど予想していない）。
　遠くでは愛李子が魚を追いかけつつ壁の掃除を行う。だが、上手くいっていないようで魚はびゅんびゅん逃げる。その光景は本当に水族館の大きな水槽を泳ぐ魚に見えて、ちょっと楽しい。
（だけど、掃除しないといけないんだよね）
　丸美は苦笑してしまう。
「あれ？　なんで壁に堀とか網をかいているの？」
　そこにやってきたのは、教室掃除を手伝うべくやってきた七夜あおいである。
「あぁ、あおいさん！　実は……」
　と彰尋が説明すると、あおいは「おもしろそう！」とにっこり笑う。そして彼女もまた作戦に参加してくれることになったのだった。

＊＊　＊

　しゃーっ、と勢いつけて滑り行く愛李子。それを避けつつも壁に描かれた魚を丸美が描いた網か、彰尋が描いた堀へと追い込む。その作戦が、今まさに行われようとしていた。

網組
拓郎、ティオレ、丸美、莉鳥、雅樹

堀組
レオン、カノン、彰尋、瑠奈、幸次、あおい

「それじゃ、作戦開始っ！」
　彰尋の掛け声により、一同が２手に分かれて行動を開始する。網組は丸美が描いた網の中に、堀組は彰尋が描いた堀の中に魚を追い込むために！
「この身体で追い込み漁は……、普段よりきつい……」
「今の身体なら致し方ないか……。さらしでも用意出来れば別だったとおもうけど」
　ぜーはーいいながら雑巾で魚を追う雅樹に、莉鳥がため息を吐く。胸がそこそこあるので揺れるのだ。
　そんなこんなで追い損ねた魚は、ティオレがすかさず追う。モップを使った拓郎は、天井方面へと上がる魚を器用に追い込んでいく。
（最初、落書きを消した後ワックスがけを……と、思っていた。まさか、同時並行とは……！　それでも、やることは、やる！）
　拓郎がモップを振るい、網へと追い込む。その先で、丸美は網にかかる魚を見つめていた。
（……やっぱり、消しちゃうのは、なんかちょっとかわいそうだな）
　丸美は少し残念そうに見つめ……、なにか閃いた。同時に落ちていた葉っぱを頭に乗せて３回手を叩く。これが丸美のろっこん『葉っぱ紙』の発動条件だ。効果は『頭に載せた木の葉を半日の間紙に変える』というものでサイズや色はある程度望むものにすることが出来るようだ。
　『葉っぱ紙』によって葉はある程度大きな紙になった。すかさずペンを走らせ、魚の好きな海藻などを素早く描く。
「それは？」
「やってみたいことがあるの！」
　魚を追いこんできたティオレに、丸美は笑顔を向け、壁に絵を描いた紙を貼る。すると、網にかかっていた魚が絵に移っていく！
（よしよし、そのままおいで～）
　丸美が誘うと、網に追い込まれた魚が紙の中へと全て入る。それを確認すると、魚と海藻などを丸く囲む。ペンでもって紙の中の絵を池の風景へと仕上げてしまったのだ。
「これは、これでいいな……」
　拓郎が感心したように頷けば、丸美は小さく微笑んだ。