ボトルメールの夜｜リアクション

ボトルメールの夜

【７】

　それは志波拓郎がランニングをしていた時のこと。
　寝子ヶ浜海岸沿いを走っていた拓郎は休憩がてら砂浜におりた。
　こうして見るきらきらと光る海はランニング中の楽しみのひとつでもある。
　ぼんやり海を見ていると、ふと波打ち際に何かが浮かんでいるのを見つけた。
（漂流ゴミ……？）
　一瞬、眉を寄せる拓郎だが、拾おうとしてそうではないことに気づく。
（中に何か入ってるな。これは封筒とリボン？）
　封筒を開けてみると『この手紙を読んでくれた方へ』ときれいな文字で書かれた手紙が入っていた。
　手紙の主は長崎県に住む大学生らしい。
　この手紙を書いたのは春のこと、とても桜がきれいだと綴られている。
　それからこの手紙がどこに向かうのか誰に拾われるのか楽しみでもあり不安でもあることが書かれていた。
（自己紹介と地元紹介の内容だな）
　どこか遠くの誰かに自分のメッセージが届く。
　もしかしたら、知らない誰かと繋がれるかもしれない面白さ。
　ボトルメールのことはよく知らないが、そういう楽しみ方をするものなのだろうと拓郎は考えた。
　手紙の最後にはこう綴られていた。
『この手紙を読む貴方に、このリボンを差し上げます』
（リボンがプレゼント？）
　何かが引っかかり、きれいな藍色のリボンを見つめる。
　するとその時、拓郎の頭の中に見たこともない光景が流れ込んできた。
　見えたのは大学生くらいの女性の姿だった。
　おそらく手紙の主だろう彼女には幼馴染がいた。
　小さい頃にもらったリボンをずっと大切にするくらい大切な幼馴染が。
　しかし、幼馴染とはケンカ別れしてしまい、そのまま幼馴染は遠くの街へ引っ越してしまったようだ。
　手元に残ったのはこのリボンだけ。持っているのは辛い、けれど捨てることもできなくて……。
（それで誰かに託そうと海へ流したのか……）
　拓郎はリボンそっと握りしめる。
「これ、すごく大切なもの……だよな。自分が、持っていて……いいものじゃない」
　封筒を見返すと、住所が書かれているのを見つけた。
　それなら、拓郎のするべきことはもう決まっている。
（よし、ランニングはここまで……！）
　今すぐシーサイドタウンでレターセットを買って、このリボンを手紙の主に送り届ける。
「これがいつ流されたかはわからない、けど……動かないより動いた方が後で後悔しない、よな」
　走り出した拓郎の目に迷いはなかった。

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あとがき

担当マスター：梅村象山
ファンレターはマスターページから！

マスターの梅村です。
シナリオにご参加いただいた皆様、ありがとうございました！

ボトルメールから始まるお話楽しんでいただけましたでしょうか。
楽しいお手紙もあれば、悲しいお手紙もあり、中には不吉なものも……？
どこか遠い町の知らない誰かとの出会いの中で得難いものを得られたのなら幸いです。

それでは、また別のシナリオでお会いできればうれしいです。
梅村でした。

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