ボトルメールの夜｜リアクション

ボトルメールの夜

【１】

　御巫時子がそれを見つけたのはある晴れた日のことだった。
　三夜湖で鳥達との会話を楽しんでいた時子はふと湖面に浮かぶ何かを見つけた。
（あれはボトル……でしょうか？）
　曇ったガラス瓶の中には赤と白のバラのドライフラワーと手紙が入っていた。
　興味を惹かれた時子はそれを手に取り、まじまじと見つめた。
（誰かの落し物かもしれないですね）
　ボトルの外側には特に落とし主の手がかりとなるものはなかった。
　何か手がかりとなるものはないかと思い、時子は中の手紙を取り出してみる。
「『天気の良い日にティーパーティーを開いてるのであそびにきてね。さんかは子どもだけだよ。おとなにはないしょ！』……」
　パーティーのお誘いの手紙だろうか。どうやら手紙の差出人は子どもらしい。
（よく見るとこのボトル、古いものみたいです。長い間湖を漂っていたんでしょうか……）
　その時、時子の頭の中に不思議な光景が広がった。
（これは……？）
　場所はどこだろう。時子には見覚えのない場所だった。
　子ども達が集まって、ティーパーティーを楽しんでいる風景だ。
　テーブルの上には色とりどりのお菓子が並び、グラスに入った飲み物はジュースだろうか。
　赤やオレンジ、グレープのような色合いの飲み物がパーティーを鮮やかに彩っている。
　子ども達のまわりには犬や猫、小鳥などもいて、あたたかい空気が流れているように思えた。
（楽しそうです……）
　時子が小さく微笑むと、広がった景色は形を変えた。
　次に見えたのは川だった。水の澄んだ小川だ。水は日の光にきらきらと輝き、せせらぎの音が聞こえてくるようだ。
　女の子がボトルに手紙を詰めている。
　新しいお友達を作りたい、そんな期待に表情が踊っていた。
　川にボトルを浮かべると、沈んだり浮かんだりを繰り返して、ゆっくりと流れていく。
　女の子は友達と一緒に見えなくなるまでボトルの行方を見つめていた。
（……今のはいったいなんでしょう？）
　時子はぼんやりと湖面を見つめた。
　あれは誰かの記憶の断片？　ボトルメールが見せてくれたのだろうか？
（これも神魂の影響なのかもしれないですね。川に流して山の上の湖に到着してるのも不思議です……）
　いったいこのボトルはいつ流されたものなのだろう。少し前なのか、それともずっと昔なのか。
　小学生の頃から、時子は夏休みを寝子島で過ごしていた。
（もしあの頃にこの手紙を見つけていたら、ティーパーティーに参加してみたかったですね）
　手紙にはドライフラワーは拾った人へのプレゼントと書いてあった。
　それだけで、名前は住所は書いていない。これじゃ拾っても、パーティーに参加するのは大変そうだ。
（ふふ、あの女の子はうっかりさんなんでしょうか）
　どこの誰かもわからない誰かのボトルメール。ここで出会えた巡り合わせに感謝して、大切に持っておこうと時子は思った。
「いつか書いた子と出会えたら素敵ですね……」　
　静かに揺れる湖面を見つめ、時子はそんなことを思うのだった。

このページにイラストを設定する