授業風景～番外編・自習の場合～２｜リアクション

授業風景～番外編・自習の場合～２

○勉強好きの自習時間

　修の周りもすっかりにぎやかになっていましたが、集中していて気になりません。
「ああ、ここはね……」
　それでも呼ばれれば自分の世界から戻ってくるので、質問されたら丁寧に教えます。
（しかしちょっと騒音が大き過ぎるな）
　修は、一番賑やかだった生徒に両手を出して見せます。
「？　何だよ？」
　怪訝な顔をする生徒に、修は指手品を披露してみせました。
「えっ、指が消えた？」
「すげえ、どうやってるんだ？」
　皆は感心して種を知りたがりましたが、修は無言で微笑むばかりです。
　いつのまにか騒ぎは収まっていました。

　しかししばらくするとののこが歌いだし、ジェスチャーゲームが始まり、また騒がしくなってしまいました。
「他のクラスも授業してるし、教室内で静かに……ね？」
　声が聞こえたほうを見れば、教室から出て行こうとしている男子生徒。
　そして小声で注意している夏朝の姿が見えました。
「脱走はやめておいたほうがいいな」
　修もやんわり制止しましたが、男子生徒は聞く気がないようでした。
「行くなら戻る時メールしてくれ。先生が居るかどうか教えるから。居る場合は保健室に行っておくと良いかもな」
　修の言葉に、男子生徒は感謝してアドレスを交換しました。
（何事もありませんように……）
　夏朝はそう願いながら、自習に戻りました。

　ところで隣の教室では、吉田熊吉先生が授業をしていました。
「騒がしいな……隣のクラスは、自習だったか」
　授業中だというのに教室の扉が開く音も聞こえ、たまりかねてついに熊吉先生が動き出しました！
　
　しかし逆に隣のクラスの扉が開く音は、席に戻ろうとした修の耳にも届いていました。
　そして体重を感じさせる足音……
　そこで瞬時に修は足音の主を悟り、襟元からホイッスルを出し鋭く吹きました。
　ホイッスルは災害対処用に常備しているものです。
　ピーッ！
「な、何？」
　騒がしかった教室が一瞬静かになります。すかさず修は言いました。
「吉田先生がこられるぞ」
　小声でしたが、効果は抜群でした。あっというまに皆席につきプリントや教科書を広げます。
　ののこも英二に引っ張られて席につきました。
　そんなわけで数秒後にガラガラッと開いた扉からぬっと吉田熊吉先生が顔を出したときには。
「この……」
　拳を振り上げて怒鳴ろうとした吉田先生でしたが、騒がしかったはずの教室は立ち歩いている者もなく、至って静かになっていたのです。
　バカタコが！　と続くはずだった台詞は、さっきまでと違う雰囲気に行き場を失いました。
「……ずいぶん賑やかだったようだが」
　じろりと教室内に睨みをきかせる吉田先生と、修の目が合いました。
　先生が何か問いかける前に、修は言います。
「勉強してて俺は気付きませんでした」
　とびっしり書かれたノートを示す修に、吉田先生は二の句を告げることができませんでした。
「ぐっ……」
　去っていく吉田先生の背中を見送りながら夏朝は心の中で謝ります。
（先生、迷惑かけちゃってごめんなさい……）
　
　キーンコーンカーンコーン。
　間もなくチャイムが鳴り、教室には再び喧騒が戻りました。
　夏朝は忘れずにプリントを取っていない人に配り、片付けて次の授業へ向かいます。
（四十九院先生……次以降の授業は、平穏に出て来れますように）
　そんな夏朝の思いと共に、自習の時間は無事終わったのでした。

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