授業風景～番外編・自習の場合～２｜リアクション

授業風景～番外編・自習の場合～２

○遊びは静かに……

「自習かぁ……とりあえずプリントを読んでみよう」
　佐藤英二は、プリントを取りに行こうとして、ふと思いつきました。
（そうだ、野々さんの分も……）　
　英二の席から二つ隣にいた野々ののこのほうを見て、驚きました。
「ばっひゅーん！　猫さん探しにいこうかなー♪　あっ、体育楽しそう～」　
　窓から顔を出して外へ向かって手を振っているではありませんか！
　慌てて英二はののこの元へ向かい声をかけます。
「野々さん、自習時間だけど、一応、授業中なわけだし、その、あからさまに遊ぶのは不味い気がするんだけど……」
「えー、英二くんは遊ばないの？」
　きょとんとしているののこに英二は困ってしまいました。
　なんだかんだ言って英二はののこに甘いのです。

「自習ですか？」
　１年生の愛猫萌々子は、すぐに課題のプリントを取りに行ったものの、そのまましまい込みました。
（プリントは宿題にして、今はやりません）
　温和で礼儀正しい性格の萌々子は、裏の顔を隠すため普段は余計なことは言わないよう大人しくしていますが。
　実は野々ののこを応援する『ののこ様親衛隊』の隊長です。
　ののこは萌々子にとって人生を変えてくれた恩人でした。
　萌々子はののこをモデルにしたキャラ『のんこ』が主人公のオリジナル漫画まで描いています。
（投稿している『のののガールシリーズ』の新しいエピソードを考えなくては）
　一緒に授業を受けられるこの時間、萌々子はののこの斜め後ろに座っているので、デッサンするにはもってこいです。
（ここから見える範囲でののこ様のお顔を描いてスキルアップを！　……って、いきなり動き出しちゃうんですか？）
　立ち上がって窓へ向かうののこに焦る萌々子。
　しかし後姿を見るより、立ち上がってくれたほうがスケッチには好都合でした。
（おでこが広くて、アホ毛が立ってて、表情はコロコロ変わるけど笑っている顔が一番多い……三等身ぐらいのデフォルメされたミニキャラで描くのも楽しいです）
　その時、隣を通り過ぎる人の気配を感じて萌々子は振り向きました。
　すると同じ教室にいるワカメ頭の鷹取洋二と金髪縦ロールの剣崎エレナの姿が目に入りました。
（次回作にはワカメ頭男や金髪縦ロールのお嬢様なんてインパクトのあるキャラクターを出すものいいかもしれません）
　そんなことを思い付いて、こちらも軽くデッサンしてみます。
（うーん、簡単に書いては見たけどお二人とも髪型が難しい……家に帰ったら髪の描き方講座でも探してみましょうか……）
　熱心にスケッチブックを見つめていると。
「わあっ、上手、かわいい！」
　不意に聞きなれた声が隣から聞こえ、ぎょっとして萌々子は顔を上げました。
「ってののこ様、じゃなくてののこ先輩！？　いつの間にお隣に！？」
　明らかにののこは萌々子のスケッチに興味深々です。
「この絵は、あの、芸術科での課題用に人物画を練習していまして！　勝手に描いてしまってたんですけど……」
　わたわたとごまかす萌々子。
（……あなた方をモデルにして漫画描いてますなんて言えませんし）
「えっ、これエレナ先輩にワカメ先輩なの？　すごい、そっくり～、あ、こっちの子は私に似てるね！」
　笑顔でデッサンを見つめるののこの様子に、萌々子はほっとしました。
（楽しそうに見てくれているのならセーフですね）
「何か描いて欲しいリクエストってありますか？」
「えっ、何でもいいの？」
　目をきらきらさせるののこに、萌々子は微笑みかけます。
「出来る限りやってみますよ」
「それじゃあねえ……ねこ！」
「はい」
（さすが猫好きののこ様ですね）
　ののこのリクエストに、萌々子は頷いてできるだけ可愛い猫の絵を描き始めました。
「うわあ～、可愛い！」
　満面の笑みで喜ぶののこに、幸せな気分になる萌々子でした。

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