Re:シーサイド・ザ・クラブ｜リアクション

Re:シーサイド・ザ・クラブ

●●●救出●●●
　武井琴代が海に飲み込まれたとき、動いたのは2つの影であった。
　1つは攻撃を受けるのを厭わず、自ら海の中へ飛び込み、いくつもの波を発生させた。
　1つは琴代が飲み込まれた波へと、海の上を飛んで文字通り一直線に向かっていく。

「先ずは武井から蟹を引きはがす！」
「そうね」

　一直線へと向かった影、フツウじゃない速度の御剣刀は手にした木刀を振るう。
　その切っ先に捉えられたフツウじゃない色のカニは空へと舞っていく。
　同時に波が少なくなっていき、琴代の姿が浮かんでくる。

「っ、頼む！」

　刀は自身のろっこん【加速】の力が切れる前に砂浜へと戻る。
　海の中に入って行った一つの影、椎井莉鳥は波に迫られつつも懸命に琴代へと手を伸ばす。
　その甲斐あって、琴代の腕を掴むことができた莉鳥だが、不自然な波はまだ対処できていない。

「無事のようね」

　海から顔を出して海水を吐き出している琴代に、ぶっきらぼうながらも安堵の声をかける莉鳥。
　もちろん不自然な波を忘れたわけではないが、撃退の目途が見えたのだ。

「大丈夫ですか！　椎井先輩！」

　ばしゃりばしゃり、と音を立てながら不自然な波自体を攻撃を繰り返して莉鳥を援護するのは響蒼留人。
　色違いのカニを倒すはまだ知らないが、その分木刀を振るう回数を増やして倒していっている。
　莉鳥は浅くない海水の中で波に流されないよう忙しなく足を動かして砂浜を目指す。

「こっちですー！　ほら、ボーッとしてないで手伝って！」

　砂浜で待ち受けているのは高身長ながらも柔らかな雰囲気を有する羽生碧南である。
　サラリーマン風の男、久保直也の隣で懸命に波打ち際ギリギリで手を伸ばす碧南。
　莉鳥と琴代を迎えると、撃退をしてくれた蒼留人と再出撃していた刀も戻ってくる。

「大丈夫？　意識はある？」
「う、うん……」

　莉鳥は自らに滴る海水をぬぐうよりも先に琴代の頬を軽く叩いて意識を確認する。
　控えめに頷く琴代に蒼留人が持ってきたタオルで、碧南が琴代の体を拭いていく。

「タオル持ってきてよかったですよ」
「ありがとうございます、助かりました」

　蒼留人は琴代の介抱を見守りつつ、息を整える。
　直也はスマホの操作も忘れて、琴代の背中をさすり礼を返す。

「出現条件は去年と変わってないみたいだな。数は多いが」

　刀は一人、引き続きカニの相手をしていた。
　去年、カニに直接対峙した一人であり、こういったフツウではないこととの遭遇も少なくない。
　接触型の出現条件であれば琴代や直也にこれ以上の被害が出ないことが確認できたことは大きい。

「…ええと、ありがとう、ございます」

　ある程度回復した琴代が横たわりながら皆に礼を言う。
　笑顔に力はないが、直也の顔を見て安堵の息が漏れた。

「致命傷はないけど傷の数が多いわね」
「薬とか包帯とか必要かな……」

　ようやっと海水をぬぐう莉鳥は手持ちの荷物を漁るが手当に適したものは持ってきていない。
　碧南と蒼留人も似たように探していたが、やはり所持していない。
　はたと気付いたように碧南が直也に向かい合うように見据えて要望を伝える。

「サラリーマンさん、近くのドラックストアまで走って買いに行けます？」
「それなら網も調達できませんかね？　一網打尽にしたほうがいいと思って」
「あ、あぁ…分かった。じゃあ少し行ってくるよ」

　碧南に便乗するように蒼留人が言葉を重ねた。
　蒼留人が倒したカニは多くないがそれでも、海水の中で戦い続けることの困難さを察したのだろう。
　直也は頷き、介抱される琴代に後ろ髪を引かれながらも頷き、砂浜を後にしようとした。

「俺からも一つ頼めるか？」
「？」

　直也を引き留めた刀は、去年使ったようなものを頼むのであった。

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