参道商店街のお留守番｜リアクション

参道商店街のお留守番

○たこ焼屋さん

「へいらっしゃーい」
　桃色の髪をゆる巻きにした桃色足子八が、威勢よく声をかけました。
「あれ、いつもの大将と違うね、今日はお嬢ちゃんが店長なの？」
　常連らしいお客の問いに、楽しそうに答えます。
「せやねん、私ここん店でバイトすんの初めてやねんけどな」
「え、大丈夫なの？」
「大丈夫やて、仕込みは大将にやってもろたし、関西育ちの私が焼くんやで？　へたしい大将焼くんより美味なってまうでー、なんてな」
「なるほど、関西の人か。大将も負けそうだな」
「ま、それは言い過ぎやけどマズいもんは出さへんよって心配無用や。ほら、でけた」
　皿には熱々のたこ焼きが湯気を立てていました。
「やけどせんように食べてやー、あっ」
　足子八は鉄板の前でお好みを焼いてる客に目を留めました。
「こらっ!　そこのお好み焼きはまださわったらあかん、もうちょい待ち。ここで待つんが素材へのエチケットや」
「そんなもんかねえ」
　頃合を見て声をかけます。
「よっしゃ、ええで、今や」
「よし、こうか」
　ベストタイミングでお好み焼き返しが決まり。
「おっちゃんひっくりかえすのうまいやん。プロになれるで」
　お客さんをほめるのも忘れません。
　
　ノリのいい関西弁に加え、足子八はかわいくて妖艶でした。
「たこ焼きやくんもイカ焼やくんもお手のもんやでー、私にまかせときー。お土産忘れんといてやー」
　いつのまにか噂を聞きつけて、どんどんお客さんが集まっていました。　
「はい、まいどー、たこ焼20船にネギ焼10枚、こりゃ忙しなってきた」
「おいおい一人で大丈夫かい？」
「心配せんでええで、あつあつの美味しいのん焼いたるし。座ってまっといてー」
　そう言うと足子八は厨房の奥へ引っ込んでいきました。
　客から見えない所でなにやら念じると、手から何本もタコの触手が！
　ろっこん『このたこはち!!』の発動です。
　たくさんの触手で、粉をといたりひっくりかえしたりを効率よくこなし。
「へいお待ちー、たこ焼き2船、持ち帰りやね、まいどー」
「タコせんくださーい」
　小さな女の子がやってきました。
「嬢ちゃんはタコせんか。あいよ、すぐ出来るでー」
　せんべいでタコ焼きをサンドするのが大阪屋台のタコせんです。
「ほら、気ーつけて食べるんやでー」
「わーい、あっ、おいしい！」
「おいしやろ？　そらあたりまえや、通天閣のモモイロ粉もん女王言うたらあれ私のことやで」
「そうなの？」
　素直に目を輝かせる女の子。
「ま、嘘やけどな」
　屈託なく足子八は笑います。
「えー」
　女の子も一緒に笑いだしました。
「通天閣はともかく、この店じゃ女王間違いなしやな。女王様、豚たま１枚追加な！」
　お好み焼きのお客さんから声がかかりました。
「ええね、豚たま1枚追加やな。よろこんでー」
　ウィンク１つして、足子八は粉を得たタコ（？）のように生き生きと、仕事に励むのでした。

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