参道商店街のお留守番｜リアクション

参道商店街のお留守番

○牛丼屋さん

　雑貨屋を出た碧南は、お腹が空いていることに気づきました。
（どこか適当な店に入ろうかな……）
　と思っていたら、目の前に牛丼屋が。
「ここにしよう」
　さっそく入ると、
「いらっしゃいま……わあっ！」
　思い切りつんのめりそうになった店員さんを見れば、野々ののこでした。
「ののこちゃん、牛丼屋で働いてたんだ」
「碧南ちゃん！　いらっしゃ～い、どうぞどうぞ」
　とりあえず席についた碧南はメニューを眺める。
「えーと、牛丼大盛りに温泉卵、お新香みそ汁セットをお願いします」
「はーい、牛丼大盛り、卵、えーとおしんこみそ汁ですねー」　
「温泉卵ね？」
「あっ、温泉卵だね、かしこまりました～」
　がしゃん。
「あ、やばっ」
　ふりむいた拍子に肘をテーブルにぶつけたらしいののこ。
「大丈夫？」
「えへへ、大丈夫大丈夫」
　笑顔で厨房へ向かいます。
（やる気はあるみたいだけど空回りしてて危なっかしい。ちゃんとできるかな……なんか不安になってきた）
　見送りながら碧南は思うのでした。

「お待たせしました～」
　しばらくたって、ののこがほかほかの牛丼を運んできました。
（それでも一応、ちゃんと注文された品は届いたわね。牛丼は大盛りだし、温泉卵だし、お新香みそ汁セットも一応、大丈夫っぽい。でも肝心の味はどうかな……）
　不安ですが、香りは大丈夫そうです。
　恐る恐る牛丼を食べてみると──
（普通の牛丼だわ……よかった）
　ほっとして目を上げると、ドヤ顔でののこがこちらを見ていました。
「ふふっ」
　ちゃんとできたでしょ、といいたげに胸を張っている姿に、思わず笑ってしまう碧南でした。
　　
　帰り際、お金を払い終えた碧南はののこに声をかけました。
「今日はおいしかったよ。じゃあ頑張ってね！」
「うん！　ありがとー！」
　ののこの笑顔が返ってきました。

このページにイラストを設定する