参道商店街のお留守番｜リアクション

参道商店街のお留守番

○牛丼屋さん

「天気も良いですしお買い物日和です」
　御巫時子は旧市街を歩いていました。
「あっ、尚輝先生……こんにちは」
　なんという偶然か、五十嵐尚輝先生にばったり出会いました。
「一緒に買い物に行きませんか」
「僕も買い物に来たところです。一緒の行き先なら構いませんが」
　二人は一緒に歩き始めました。
「そういえば近くでののこさんがアルバイトされてると聞いたので行ってみたいです。ちょうどお腹もすきましたし」
　時子の言葉に、尚輝先生はぽん、と手を打ちました。
「そういえば朝食を食べていませんでした」
「……ちゃんと食事を摂ってくださいね。尚輝先生、牛丼お好きですか……？」
「好きです。野菜が少なくて美味いし、安いし」
「……ちゃんと野菜も摂ってくださいね」　
「はい」
　そんなことを話しながら、二人は牛丼屋に入りました。

「いらっしゃいませー」
　ののこの元気な声が飛んできました。
「こんにちは、ののこさん。高校の制服以外の姿は新鮮ですね。とてもお似合いです」
　時子が挨拶すると、
「あっ、時子ちゃんに五十嵐先生、こんにちはー！　えへへ、似合う～？」
　嬉しそうにののこは笑った。
「カウンター空いてるよー」
「それじゃ、そこでお願いします」　
　そこへ、他のお客さんからクレームが飛んできました。
「ちょっと、これ注文と違うよ」
「あっ、ごめんなさーい」
　ばたばたと走っていくののこを、時子は心配そうに目で追います。
「大丈夫でしょうか……ついフォローしたくなりますね」
「野々くんなら大丈夫でしょう」
　尚輝先生はゆうゆうとメニューを開きます。
「牛丼の並と豚汁にします」
　時子が言うと、
「僕は牛丼（並）に生卵を二つ」
　尚輝先生はすぐに注文を決めました。
　
「はーい、お待たせしました」
　ののこが牛丼を運んできました。どうやら品物は間違っていないようです。
「美味しそうですね……いただきます」
　時子が言い、二人は牛丼を食べ始めました。
　尚輝先生はどんどん牛肉を食べていきます。　
「久しぶりに食べましたが美味しいですね」
　そう言いながら時子は、
（尚輝先生と一緒だからというのもあるかもしれませんが）
　と思っていました。
「そうですね」
　尚輝先生は牛丼から肉が消えご飯だけになったところに、生卵二つを入れてかき混ぜ。
　卵かけご飯にして食べ始めました。
　ちょうどののこが注文取りの帰りに隣を通りました。
　時子が声をかけます。
「ののこさん、もう慣れましたか……？」
「うん、ばっちりだよー」
　そう言うと、ののこは去っていきました。

「尚輝先生はアルバイトされたことありますか……？」
　時子の問いに尚輝先生は首を傾げました。
「御巫さんはバイトをしたいのですか」
「ええ……私は高校に入って色々アルバイトしましたね。どれも貴重な体験ができて楽しかったです」
　奥からはののこの元気な声が聞こえてきました。
「生徒がアルバイトしてる場所に行くと新たな一面が見えたりするのでしょうか？」
　それを聞いた尚輝先生は少し考えて答えました。
「野々さんは学校と変わらない様子ですね。僕はアルバイトで、ひたすら虫に手を刺されて実験台になる仕事をしました」
「ええっ、それはつらいですね……」
　驚いて尚輝先生を見る時子。
「虫除けの薬を開発してる医薬品会社のバイトでした」
「そんなバイトがあるんですね……」
　
　食事を終えて席を立ち、時子はののこに声をかけました。
「ののこさん、美味しかったです……。また来ますね……」
「うん、ありがとうございましたー！」

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