参道商店街のお留守番｜リアクション

参道商店街のお留守番

○雑貨屋さん

　恵御納夏朝は、いつも通り休日にできる一日バイトを探していました。
「旧市街、一日店主募集……？　旧市街や寝子島の人達の助けになれるなら、喜んで！」
　さっそく申し込んだ夏朝は、お世話になっている雑貨屋さんの店番を頑張ることになったのでした。
（ろっこん用のねこシールや、色んな物を買うのにお世話になってるんだ）
　一日店長の印としてエプロンを装着して、両手に薄手の透けない布製白手袋……は、普段付けている物でしたが。
「いらっしゃいませー！」
　店長さんが用意してくれたマニュアルも参考に、お客様へ笑顔で応対します。
　エプロンの胸元から覗くのは橙色布製猫パペットの『ハルくん』。
（いつもは手にはめてるんだけど、今回はお仕事の邪魔にならないように）
　胸ポケットに入ったハルくんは、夏朝の手の空いている時はパペットとしてお客さんを一緒にお出迎えするのでした。

　当然のことながらお客様毎に求めている物・買う物は異なります。
（ちょっと興味を惹かれるなあ……あ、あの子ねこグッズを見てる）　
　大の猫好きの夏朝はつい注目してしまいます。
（猫さん関連の物を買う人だとちょっと嬉し……って、どの品物でも購入は平等にありがたいから接し方も平等にー！）

　羽生碧南は、参道商店街の企画で一日店主のバイト企画があるのを聞きました。
　しかし。
「え？　すでに募集締め切りが過ぎてる？　……乙女ゲーを購入する資金稼ぎになったのに！」
　応募できずに残念がる碧南でしたが、すぐに気を取り直しました。
（何人か友達がそこでバイトしているから、適当に回って冷やかしてみるのもいいよね）
　こうして店を見て回ることにしたのです。
「いらっしゃいませ……なんだ、碧南かー」
「なんだはないでしょ、お客様よ？」
「失礼しましたー、お客ならちゃんと買っていってね。ね、これなんかどう？」
「なんでそういう露出が多いの勧めるのよ？！」
　そんなふうに騒がしく買い物をして店を出た碧南は、近くにあった雑貨屋さんに立ち寄ったのでした。
「いらっしゃいませー！」
　夏朝がハルくんを動かしながらお出迎え。
　同じ桜花寮で顔見知りの夏朝を見ながら碧南は思います。
（はりきってるなあ、ちょっと見るだけのつもりだったんだけど……）
　そんなことを思いながら品物を見ていた碧南は。
「あ！　このカップは！」
　乙女ゲーで攻略中のキャラの持ち物と似たデザインを見つけて声を上げてしまいました。
（あ、微妙に違う……惜しいなあ。柄違いのあるかとか、聞いてもわからないよね？）
と思いつつ、声をかけてみました。
「あの、これなんだけど……」

　そのとき夏朝は、碧南の動きを目で追いつつ、あんまりくっついていても見づらいよね……と遠巻きにしているところでした。
　ザーッ！
（えっ？）
　そこで夏朝は、あいにくの耳鳴りに襲われたのです。
（また……後遺症？）
　ある事件の後遺症の耳鳴りは、大分よくなったけれど時たまこうして現れます。
　周りからはぼんやりしているようにしか見えません。
「……あの、聞いてる？」
　ようやく耳鳴りが収まり、自分が話しかけられていたことに気づいたのでした。
「……あっ、ごめんなさい！　すみません、もう一度言っていただけますか」
（……うう、せっかくの１日店長なのに…！）
　平謝りの夏朝をいぶかしみつつ、碧南は言います。
「いや、わからないよね、こっちこそごめんなさい」　

　碧南が帰った後は、いっそう店長の仕事を頑張って、夏朝は耳鳴りに悩むことなく仕事を終えることができました。
「なんとか１日やりきった……！」
　心地よい疲れと開放感に浸りながら思います。
（店長さんには程遠い僕だけど、お客さん達、少しでも満足してくれてると良いな。
　……旅行に行った店長さんも、いい時を過ごせてたらいいな！）

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