テスト勉強しなくっちゃ。夏！｜リアクション

テスト勉強しなくっちゃ。夏！

◆
それは、期末テストの少し前の教室での、休み時間のできこと。
眉根をよせ、唇をきゅっと引き結んだ優木遥斗が、さっきの授業で返却されたばかりの小テストをにらみつけていた。
部活動か運送屋のアルバイトで体を鍛え、お腹が空いたら食べて、そして眠くなる。そんな毎日の繰り返しで、短かった勉強時間。
目の前のこのペラ紙がつきつけてくるそのツケに、胃のあたりが締め付けられる気がした。
「まずい……」
椅子の背に力なくもたれかかって、気持ちげっそりとした声で呟く。

テスト勉強、しないと。

◆
昼休み。
昼食を済ませた遥斗は、自分の席で化学のノートと教科書を広げていた。
周囲の騒がしさをよそに、黙々と教科書記載のおさらい用問題とにらみ合う。誰かか何かが机にあたって揺れたりしても、その視線は外れない。
けれどそれは、解けるかどうかとは別問題で。
「うーむ……」
化学式の記号がうまく結びつかなくて、早くも考え込む羽目になってしまった。
確かこれに関連した実験を授業でやったはず、とノートを見てみる。確かに実験の記録はあったけれど、遥斗はむしろ眉根を寄せることになった。
（ノートの記述を当てはめると、問題文に書いてあることと矛盾が……？）
そんな馬鹿な、とノートと問題文を見比べる。どちらかを読み違えているに違いない。
二度三度と、視線を往復させる。
視線を往復させる。
往復させる。
往復さ、
「――ハッ」
両頬を軽く叩く。
いつの間にやら、霧の中に迷いこむようにして、眠気に誘われてしまったらしい。
若干ぼやけたままの視界を拭って、一度深呼吸。
（このままでは、まずい）
一人で考えていても、きっとまた眠くなってしまうだけだろう。真面目に勉強しないとならないのに、これでは本当に――まずい。
時計を見る。昼休みが終るまでには、まだしばらく時間があった。
よし、と。ひとつ決意して、席を立つ。
（五十嵐先生に質問してみよう）
ノートと教科書を手に、実験室へと向かうことにした。

失礼します、と一礼して遥斗が実験室に入ると、五十嵐尚輝先生はビーカー片手に窓の方を眺めてぼんやりしていた。
「五十嵐先生、今お時間大丈夫ですか」
遥斗に気づいて、先生は空のビーカーを机に置く。香りからすると、コーヒーを飲んでいたらしい。
「はい、大丈夫ですよ……。どうかしましたか？」
「お願いがあります。化学の問題で、どうしてもわからないところがあって」
「そういうことなら、どうぞこっちへ」
促されるまま席に座って、「ここなんですが……」と問題文とノートを見せる。
一目見るなり、先生は何かに気づいたようだった。
「ああ、これは……ここが間違ってますね」
先生が指さしたのは、実験記録のとある部分。例の、遥斗を悩ませていた箇所だった。
話を聞いていると、どうやら単純な、けれど決定的な書き間違いのよう。おそらくは実験で手間取ってしまい、焦って記入してしまったのだろう。
正しい記述を教えてもらってから問題文を読んでみると、今度はすんなりと理解できた。
「……焦るとかえってうまく行かなくなるのは、実験も勉強も同じです。自分のペースを大事にするといいと思いますよ」
タイミングよく、と言うべきか。窓の向こうにやってきた小鳥に、「おや」と視線を向ける五十嵐先生。
なるほど確かに、自分のペースというのは大事なのだろう。
「ありがとうございました、五十嵐先生」
一度には点数を上げられないだろうけれど、焦らず自分のペースで頑張ろう。
気持ちを新たに、遥斗は実験室を後にした。

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