忍の極意を見よ！　でござるの巻｜リアクション

忍の極意を見よ！　でござるの巻

　どろん！　と消えた青忍・鎖鎌の竜は、一人、裏通りに飛んでいた。
　とはいえ、赤・青・黄が揃ってこその猫股流忍軍。
「そう、我らは仲間！　仲間ゆえ、又蔵は危険を引き受けてくれたのでござる！」
　ごごご、と背後に炎でも背負いそうな雰囲気で、竜は爽やかな寝子島の空を見上げた。
　――と。
　目の前に、通りすがりの女子発見。
「おお、ここはエモノが豊作でござるな！　いざゆかん、美しきおなごのもとへ！」

　※

「え？　今、何か声が聞こえた？」
　いつも通りの買い物帰り、白石妙子はふと足を止めた。
「……忍者の痴漢の噂を聞いているけど……まさか、私を狙ったりはしないわよね？」
　今日は近所のスーパーに行っただけだから、特におしゃれはしていない。
　いや、たとえ綺麗な服を着ていたとしても。
「そうよ、私はこんなおばさんだし、気にしすぎだわ」
　自分の心配をするよりは、息子の方を心配したい母親心で、そう結論づけると、妙子は再び道を歩き始めた。
「早く帰って、夕食の下ごしらえをしなくっちゃ」
　なにせ息子は成長盛り。美味しいものをたくさん食べさせてあげたい。
　そう思ったところで、再び耳に、聞こえるものが。
　しかも今度ははっきりと。

「だ、誰かっ！　助けてえええっ！！」

「……近い、わね」
　きっとすぐ近くで、何かが起こっている。話に聞いている、痴漢かもしれない。
（怖い）
　ごく一般的な主婦の妙子にとっては、当たり前の感情だ。
　だが彼女は――。
「……放ってはおけないわ」
　エコバックを抱えて、走り出した。

　の、だが。その場に着いてすぐ。
「きゃああああっ！」
　妙子は、竜の鎖鎌に、手足を絡め取られてしまった。
「ふふふ、お主の足音は、よく聞こえていたでござるよ」
　そう、竜は妙子が向かってくることに気が付いて、次なるエモノを捕まえてやろうと、武器を構えて待っていたのだ。
「あ、さっき、助けを求める声がしたのは……？」
　震える声で問えば、竜はあっさり。
「目的達成したから、もう解放したでござるよ。これでニャンスタのいいねが山盛りでござる……！」
　近付いてくる竜に、妙子の全身がひきつる。

「さあて、お主はどんなぱんつをはいているでござるか？」
「ひいっ……」

　知らぬ男に下腹のあたりを探られ、下着をはぎ取られる。
　しかも彼はその後、鎌で、服を切り刻んできた。
　竜が切るのは、赤く色づいた胸の先とか、ちょうどふくらみの下あたりとか、腰骨が尖った場所とか、太腿の付け根とか、はたまた尾骨ぎりぎりのところとか、とにかく微妙なところばかり。
「や、やめて……お願い、こんな姿、知り合いや子供に見られたら……」
　涙を浮かべた目で弱々しく呟くも、竜は楽しそうにすまーとふぉんを構えた。
（嫌っ、見ないで……！　撮らないで……！）

「おお、いいのが撮れたでござる！　さっき地面に落とされたときはどうかと思ったが、画面が割れてても使えるんでござるな」
　竜は興奮気味に、スマホの画面を見入る。だが慣れない操作にとまどっているようだ。
（もしかして、今が逃げるチャンスかもしれない。そうよ、私の前に捕まった人のように声を上げて――）
　この時間ならば、息子がここを通るはずはない。知り合いだったらショックだが、これ以上辱めを受けるよりはよほどいい。
　妙子は思い切って、声を上げた。

「た、助けてっ！！」

　その声に、竜ははっと振り返り、すぐさま妙子から鎖鎌をほどいて、どろん！
「あっ……ちょっと！」
（手が自由だったら、顔を写真に撮れたのに……！）
　妙子は、次の犠牲者が出ないことを祈りつつ、ぼろぼろの自身を見下ろし、ため息をついたのだった。

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