忍の極意を見よ！　でござるの巻｜リアクション

忍の極意を見よ！　でござるの巻

　どろんと消えた黄忍、吹き矢の文太が逃げた先は、クリーニング屋の前の道であった。
　そして、そこに居合わせたのは、虚栄心。
「むむ、おなご！」
　文太が心に目を向ける。

「えっ！？　なに、この人！」
　心は、驚き一歩引きかけつつも、怪しすぎる忍びの手に、小さな武器が握られていることに気が付いた。
（背中を見せたら、まずいかもしれないわね。ということは――）
　心はその場にしゃがみこみ、冬服のブレザーが入った大きな袋を、盾のようにつきだす。
「お前はただの人間だ！　お前はただの人間だ！」
　ろっこんの力を発動するために、呪文のように繰り返せば、文太は首を傾げて怪訝顔。
「確かに拙者は人間。だがそれは、お主もでござろう？」
　文太は一歩、心に近付く。

「お前はただの人間だ！　お前はただの人間だ！　お前はただの……」
「……わかったでござる。拙者のような優秀な忍びに出会って、恐ろしさのあまり、そんなふうになっているでござるな」
　文太はにやりと笑って、また一歩、心に向かって足を進めた。
「大丈夫でござる。拙者、おなごの命はとらんでござるよ。ちょーっと触るだけ……んん？」
　足を動かそうとして、文太は立ち止まった。
　右足の膝をゆっくり上げて、すとんと地面に下ろす。
「気のせいでござるか？　……いや……」

（ふふ、『人間惨禍』がきいてるんだわ）
　ブレザーの盾の後ろで、心は口角を上げた。
　その間も、口はずっと「お前はただの人間だ」と繰り返している。
　文太は今度は左足を上げ、下ろし……。何かに気づいたように、目を見開いた。
「おなご！　貴様っ！」
　矢筒を持つ手をじりじりと持ち上げ口元に寄せ、ヒュッと息を吐く。
　が、飛び出た矢は、勢いがまるでなく、ブレザーの袋に当たり、あっさりと地面に落ちた。
「なっ……もう一度でござるっ！」
　文太は言った通り、再び吹き矢を拭こうとした。でも今度は、その手が上がらない。

「お前はただの人間だ。もうそこから動けないわよ」
　心は立ち上がり、今や自重に負けて地面に寝転がってしまった文太を見下ろした。
「お前はただの人間だ。さっきはその矢で何をしようとしたのよ」
　ぜったいよからぬことに決まっている。心は黄忍の頭を踏むべく、足を持ち上げた。
　すると忍びが「ぐふふ」と笑う。
「お前はただの人間だ。何笑ってるのよ！」
「いや、だってお主、スカートだから、ぱんつが丸見え……ぐはあっ」
「お前はただの人間だ、お前はただの人間だ！　ぱんつを見るなんて！　最低よ！」
　心は、踵をぐりぐりと、文太の顔に押し付けた。

「そんなの、お前が足を上げるから悪いでござる！　拙者はただ、ラッキースケベに巡り合えただけでござる！」
「はぁ？　うるさいわよ、変態忍者！　もう、お前はただの人間だ、お前はただの人間だああっ！」
　心は、文太をげしげししつつ、思いっきり叫んだ。文太はもはや、煙玉を取り出し逃げる力もない。心のおぱんつを覗く前なら、それくらいできたかもしれないのに、無念である。

「くっ……どうせなら、おなごよ。もっと拙者を踏んで、ぱんつを見せるでござる！」
「するわけないでしょ、馬鹿ぁ！　お前はただの人間だっ！」
　容赦なく、どげしっ！　と腰の辺りを蹴る心。
「あああっ！　拙者、なにか違うものに目覚めそうでござるよおおお！」
　文太は叫び、それでもなんとか心のぱんつを見ようと、目を見開いたのであった。

このページにイラストを設定する