ねこじまはじめてものがたり｜リアクション

ねこじまはじめてものがたり

■NEW GAME
　高い岩の上から、争う人々の様子をただじっと眺める女。
　仙藤蒼という人類である。
　近年、人々の間でいくつもの争いが頻発した。
　知恵を得てコミュニティを作った人類は群れとして協力し生命活動を豊かにしていったが、それゆえに『他のコミュニティ』と相容れることが難しかった。
　コミュニティはいわばひとつの巨大な生命だ。資源の豊富な土地が一つしか無ければ、それをどちらかが諦めなければならなず、諦めた側は最悪死に絶えてしまう。
　故に、生き残るための戦いを必要とした。
　それは資源や土地に収まらず、正当な権利やプライドや種の優劣を奪うべく行なわれ、多くの血が流れた。
　このままでは人が生きていくだけで何人もの死を必要とする世界になってしまう。いずれ人類は絶え、消え失せてしまうだろう。その中には自分やその家族も含まれている。
「よし……と」
　蒼は、戦争を破壊するための戦いを始めた。

　蒼は人が争う理由のいくつかを洗い出し、その中にプライドや種の優劣、死を必要としない権利の獲得などが多く含まれていることに着目した。
　と同時に、それが子供同士で日々行なわれていることにも着目していた。
　そう。
　子供たちが『戦いごっこ』と称して木の棒でお互いをたたき合う様に明確な勝利条件を加えることで、殺し合いに変わる新しい戦争の形を作ろうとしたのだ。
「いい？　この棒を使って相手が頭にくくりつけている果実を潰した方が勝者。方法は問わないわ」
　蒼が示したのは優劣とプライドを賭けたゲーム。
　これをいくつもの部族に持ちかけ、取り入れさせたのだ。
　相手を抹殺することは勝利を遠ざける不利な行ないであると誰もが気づき、そしてゲームをより有利に進めるための研究が始まった。

　ゲームの良いところは『やり直せる』と言うところにある。
　失敗は死ではなくゲームセットであり、同じ失敗を繰り返すことでそれを回避するための学習ができるのだ。
　多くの部族はこの繰り返しを続け、ゲームの腕を上げていった。
　繰り返し行なわれる研究は技術の高度化と尖鋭化を生み、各部族はそれぞれの工夫や努力によって力をつけていった。
　だが蒼が『ゲーム』に見ていた本当の魅力とは、この先にあった。

　数年後。
　各部族が毎年部族の優劣やプライドをかけてゲームで戦うイベントが定期開催された。
　会場には多くの人々が詰めかけ、ゲームの選手は部族内で脚光を浴びた。
　華麗な技術や卓越された動きは観客を魅了し、熱狂させ、人々は夢中になった。
　人々はゲームを求め、ゲームで競い、ゲームを学んだ。
「見て、世界には本当は、戦争なんて必要なかった」
　蒼は両手を広げ、白熱するゲーム会場を見やった。
　その先には豊かな田園風景が、聳え立つ建物群が、にこやかに行き交う部族混在のコミュニティがあった。
　世界はゲームによって……蒼によって、平和という概念を手にしたのだ。

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