家、ついてっちゃうもんね！｜リアクション

家、ついてっちゃうもんね！

「お部屋を見たい？　オッケーですわ！」
　ののこに声をかけられたアイオ・キャンドライトは、何の躊躇もなく了承した。
「野々先輩、猫鳴館までの道のりは結構ありますから、一緒にタクシー？　を押して行きましょう」
「うん、わかったー！」
　どうやらののこは何人かと一緒にリヤカーを引いていくうちに、人を乗せるよりも一緒にリヤカーを運ぶほうが楽しいと気付いたみたいだ。

　荒れた道を乗り越えて、辿り着いた猫鳴館。
　ふたりの女の子の前には、「あいお」と書かれた張り紙がしてあるだけの部屋があった。
　ちなみに何を隠そうこのアイオ、猫鳴館の空き部屋を無断で使用している。
　猫鳴館だし大丈夫なんじゃないかなあ、っていう空気で済まされているのかどうかは不明……だけど、とりあえず居住地に関してはそういうことになっている。
　加えて言うと、彼女は寝子高の正式な生徒ではなくほしびとだった。
　ただ、今回それはどうでもいいこと。
　少なくとも今は寝子高生「喜矢武(きゃん) あいお」として動画の配信を趣味にしている女の子なのだから。
「おじゃましまーす！！」
　ののこがドアを開けて中へ入る。
　部屋は四畳半の古い和室だった。
　部屋の真ん中には、小さなちゃぶ台が置かれている。
　ののこは、ぐるっと部屋を見回した。
　部屋の隅には大型のハンガーラックがあり、和風のメイド衣装だったり、予備の制服だったり、普段着の黒いパーカーだったりがかけられていた。
「いっぱい服がある！」
　気付いたののこが駆け寄り、一着一着眺めていく。中でも、物珍しい和風のメイド服が目にとまったようだった。
「それが気になりますか？」
「うん！　これはいつ着るものなの？」
　アイオは、ののこの前で衣装を体の前へと持ってきて答えた。
「これは、配信用の衣装ですわ」
「配信用……？」
「実は、アイオは歌ってみた動画配信者なのです！　ビデオカメラもこちらに」
　じゃーん、と効果音でも鳴りそうなジェスチャーで、アイオはののこに機材を見せた。
「せっかく来てくれたので、今からふたりで録画しちゃいましょうか！」
「楽しそう！　やるやる！！」
　がぜん乗り気なののこに、アイオもにっこり。
　短い打ち合わせの後、録画放送が始まった。
「キャンモーニン♪」
「キャンモーニン♪」
　後に続くように、ののこも言う。お決まりの決めゼリフのようだった。
「アイオですわ、今日はゲストに先輩をお呼びしていますわ……って野々先輩！」
　紹介しようとして横を向いたアイオは目を丸くした。
　ののこが、録画中のビデオカメラに向かってスマホのカメラを向けていたから。
「え？　違うのー？」
「違うといいますか、意味がないといいますか……」
　それでも、野々先輩が楽しそうならオッケーですわね、と思いアイオはそのまま進行を続けた。
「それじゃあ１曲歌いますわ！」
「パチパチー！」
　拍手プラス声の拍手で、ののこが盛り上げる。
　どうやらこの日の録画放送は、いつもよりちょっぴり盛り上がりを見せたようだった。

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