朝、目が覚めて｜リアクション

朝、目が覚めて

俺が花遊で花遊が俺で！？

　この朝、猫の鳴き声が聞こえてくるのは、夏朝の部屋だけではなかった。
　同じく桜花寮のある一室で、さらに込み入った現象が起きていた。

　そうそう、猫の鳴き声が～とは言ったが、まだ、鳴いてない。
　目が覚めた万条幸次は、鳴くこともできずに絶句していたのだ。
　それは何故か。
　それは、目の前に「自分」がいたから。
　鏡の前に立っているのだろうか。いや、立ってない。
　では、なぜ目の前に「自分」が？　意味がわからないのは幸次自身も同じである。
　ここに自分がいるはずなのに、目の前にも別の「自分」がいて、そっちの「自分」は何故か四つん這いで歩いている。こういった現象は経験がなく、もちろん名前もない。
　四つん這いの「自分」はやがてよろよろと立ち上がった。まるで初めて２本足で立つかのように。
　すると今度はゆっくり口を開けて、あーとかうーとか言っている。まるで初めて言葉を喋るかのように。
　そして慣れてきたのか、ぼそぼそと呟いた。

「オレ、人間じゃん。顔洗わなきゃじゃん」

　手の甲をぺろりぺろりと舐めると、それを顔になでつける。まるで猫が顔を洗うかのように。
　そう、そうなのだ。
　この「自分」は幸次本人ではなく、幸次の姿をした猫である。幸次の飼い猫である「花遊」である！
　そして本当の自分はというと……

「にゃああああああああああああああああああああああ！」

　猫になっていた。
　幸次の姿をした花遊は、花遊の姿をした幸次を見て、余裕の笑み。
「オマエ、こんなに小さかったんだな」
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
「大丈夫。手はこうやって使えばいいんだろ」
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
　人間姿の花遊は猫姿の幸次を慣れない手つきで抱っこして、、
「さ、いこうか」
「にゃにゃにゃにゃにゃー！」
　必死に猫語で訴える幸次猫。
（そのまま外に出るんじゃなーい！）
　花遊にはもちろん伝わらない。
（それどうでもいいＴシャツの寝間着だし、あ、肩のところ穴あいてる！）
　花遊は手の動かし方に苦戦していて、それどころではない。
（顔だって洗ってないし、髪も、え、うそだろ、裸足？　人間は靴を履くんだよ！　くーつー！　せめてサンダル、サンダルー！）
　幸次猫の必死さは伝わったのか、部屋を出たところで花遊の動きがピタリと止まる。
「オマエ、どうせ顔洗ったのか？　とか気にしてるんだろう」
「にゃにゃ～（奇跡！　わかってくれた！）」
「大丈夫だよ、さっき洗ったし。心配ならもう一回やっとく？」
　また手の甲をぺろぺろ舐めて顔に撫でつけると、にゃあにゃあ鳴いてる幸次猫を抱っこしたまま、ついに歩き出すのだった。

「人間ちょろいじゃん。見晴らしよくって、マジ楽しいー♪」

　幸次はにゃあにゃあ嘆いていた。
（まだ誰にも見られてないから大丈夫だけど、見られたらどうするんだよぉ。今すぐ帰ってくれえ～）
　うん、安心してください。
　ふわふわ瑠奈が、にっこりやさしく見守ってますから。ふわわ～。

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