せんせいといっしょ：吉田先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：吉田先生編

○熊センセーの秘密！？

　一行は職員室へたどりついた。
「ここは職員室です」
　チカと手をつないだ時子が言った。
　熊吉先生がいるかのぞいてみたが。
「熊吉先生はおられないみたい？」
「さっき窓から見たけど、校門にはもういなかったし」
　思い出したように雅樹が呟く。
　時子はその足で理科室に向かい、カバンからお弁当を取り出しサイフォンの近くに置いて部屋を出た。
「わすれものとどけたの？」
　いぶかしげなチカに、時子は笑顔で答える。
「これは忘れ物じゃないですよ。それにしても、熊吉先生はどこでしょうか？　もしかして」
「相撲部の稽古場かもしれないな」
　修が言葉をつなぐ。
「私も行ったことはないですが確か体育館の西側に……」
　時子が言いかけたところで、小次郎が前に出た。
「任せろ！　相撲部の部室も見せてやるよ。熊センセーのつっぱりは凄いんだぜー、アフリカゾウも一撃でふっとばす！　厳しい様で実は凄い優しい！　超面倒見が良い！」
　小次郎はチカに熊センセーの強さと優しさを熱弁する。
　ちょっと戸惑いつつ嬉しそうな顔になったチカに、小次郎は聞くなら今しかない、と思った。
（あくまでも慎重に地雷を踏まないよう気をつけて……）
「熊センセーはあんな良い人なのに何故……どうして、どうしてお母さんとお父さんは離れたのかな？」
　皆の表情に動揺が走った。
　皆気になっているが、それをチカちゃんに聞くのは……
　おそるおそるチカの顔を窺うと、元気に答えてくれた。
「うん、おとなのじじょうだって」
「そ、そうなのか……」
「おかあさんはわるくない、っておとうさん言ってたよ」
　チカのけなげさと熊吉先生の切なさを思い、皆、なんと言っていいかわからなくなる。
「ありがとう。変なこと聞いてごめんな」
　熊先生への気持ちが何なのかわからないまま、小次郎は前を向き相撲部へと一行を先導する。

（理不尽に怒られた事はないし良い先生だと思うよ）
　夏朝は思う。
（僕に原因があって怒られた事はあるけど……あの案件、先生に非はないし……！）
　夏朝の両親はとても仲がいいけれど。
　悪い人でないからといって夫婦がずっと仲良く暮らしていけるとは限らないのだ。

「あっ、おとうさん！」
　時子の手を振りほどき、チカが走りだした。
　その先に１９０ｃｍの巨体があった。
「チカ？　どうしたんだ、こんなところで？」
　チカを受け止める熊吉先生。
「あのね、ちかね……」　
　事情を聞いた熊吉先生はちかの頭をぐりぐり撫でて、皆に向き直った。
「娘の面倒を見てくれたんだな。ありがとう」
（なんだろ、改めて熊センセーの顔を見てると少し恥ずかしくなってくる……センセーはいつもと変わらないのに）
　小次郎は戸惑いを覚えていた。
（娘さんの存在や新たな一面を知ったからかな？）
「よかったね。じゃあね」
　莉鳥はチカにそう声をかけると教室へ向かう。
「吉田先生、こんにちは」
　夏朝が先生に挨拶する。
（チカちゃんのお使いは大成功だ）
　先生とチカの様子を微笑ましく見つめながら、修の心の奥がチクリと痛んだ。
（これは……羨ましいという心、か）
　自分には無かった光景だった。
　もうそんな年ではないのに。
　苦笑と共に、修はその思いを心の奥へ追いやって言った。
「チカちゃん、遅刻しないよう小学校へ行ったほうがいいよ。なんなら俺の家の車を呼んで」
「おおっ、そうだったな！」
　熊吉先生はチカをひょいと抱え上げた。
　そのまま校門に向かって走り出す。
「ありがとうございました！」
「遅刻はいかんぞチカ！」　
　チカと共に、そんな言葉を残して。
「俺達も教室に急ごう。遅刻は宜しくない」
　修の言葉に我に返り、皆は解散するのだった。
　教室へ急ぎながら夏朝は願う。
（先生もチカちゃんも、普通に幸せに過ごせますように）

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