せんせいといっしょ：吉田先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：吉田先生編

○みんなで走れ！

　アリシア・エーゼルベルクは、留学生でありながら日本語が堪能、英語も世界史も得意だった。
　ただ一つの教科を除いては悪くない。
　そう、体育を除いては。
「困ったもんやな。体育の成績どうにか改善できへんものかな」
　放課後、職員室で担任の先生がアリシアを前にぼやいていた。
「体育が本当ダメね、私！」
　そう言われてもアリシアも困ってしまうばかり。
　そこへ、熊吉先生が登場した。
「話は聞かせてもらった。体育なら俺が教えてやろう」
（ここは体育の専門家から指導を受けた方が良いのでは？）
　アリシアもそう思い、
「このままでは高校ライフがピンチ！　熊吉先生、ヘルプ！！」
　さっそく熊吉先生を頼ることにした。
「それじゃ、着替えて校庭に来い」

「よし、校庭をランニングする前に準備体操だ」
　待ち構えていた熊吉先生と共に、アリシアは準備体操を始める。
「なんじゃそのヘロヘロした体操は。気合を入れろ」
「真面目にやってるんですけど……」
「手本をよく見て、ひとつひとつの動きを丁寧に真似ろ」　
　体操だけで疲れてしまうアリシア。
　けれど熊吉先生が一生懸命教えてくれているのはよくわかる。

「熊センセー、今日は部活休みなのに何やってるんだ？」
　その様子を見かけた小次郎が声をかけた。
「吉田先生、補修ですか？」
　修もやってきた。
「おう、エーゼルベルクの体育を指導している。お前たちも参加するか」
「よかったらみんなと一緒に校庭で走りたいです」
　アリシアの言葉に、修は頷いた。
「体力のないつらさはよく知っているよ。一人で鍛錬するのは厳しいよな」
「あたしもやるぜ。勉強と違って体を動かすのは苦にならねえからな」
　小次郎も準備運動を始める。
　そこへ夏朝も通りかかった。
「補修？　僕も急ぐのは苦手だけど、軽くでいいなら……参加しようかな」
「よし、みんなでランニングだ！」

　少しの準備の後、みんなは校庭を走り始めた。
「なんじゃその走り方は！　基本がなっとらん！」
　ここでもアリシアは怒鳴られる羽目になった。
「手の振りはこう！　体の軸はまっすぐにして、少しだけ前傾だ！　あごは引く！」
「はい！」
（大変だけど、みんなで走るのって楽しいかも。青春だなあ……）　
　息が上がる中、アリシアはそんなことを感じていた。

　最初は大変だったが、アリシアは努力した。先生の指導の成果もあり、仲間たちにも勇気付けられた。
「よし、少しは見られるようになってきたな。今日はこれで終了だ。あさってまた見てやる」
　熊吉先生の言葉と共に、アリシアはへたりこんだ。
　が、自分のバッグへ向かい、水筒と共に袋を持ってきた。
「ありがとうございました。これ、クッキーです。みんなで食べましょう」
　真っ白い雪みたいなパウダーが降りかかっているそのクッキーは、アリシアの故郷で食べられている伝統的なもので、彼女が心を込めて作った手作りだった。
「おいしい……」
「うまいな」
　熊吉先生もみんなも、クッキーを食べながら満足そうだった。

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