せんせいといっしょ：ジャン先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：ジャン先生編

●誕生の音

　八神修は新聞部の活動の後、公開講座を受講すべく自転車で大学へ。
　あらゆる対人場面で役に立つ、聴いて損はないというのが受講の動機だ。
　シーサイド駅を過ぎ、大学への川を渡っていた時、河川敷にジャン先生と龍目豪、水上桜の姿を見かけた。
　何をしているのかと気になり、自転車を降り彼らに近づく。
「ポランスキー先生、何をしているんですか？」
「彼らと一緒に音を探してマス。ユーも一緒に探してミル？」
　時計を確認し、まだ時間があるから大丈夫と修は傍らに座り、これまでの音探しの話を聞く。

　皆がどんな音を録音したのか知りたくなった修は、それを聞かせてほしいと頼んだ。
「私の音を聞いてください」
　桜はスマホを手渡し「どうぞ」と差し出す。
「……波の音？」
　興味が沸いたのか、再生時間が終わるまで聞く。
「プールの水面の音です。プールの水が揺れる音を録音しました」
　それでそう聞こえたのか、と修は納得した。
「俺のも聞くか？」
　豪が差し出したのはジャン先生の録音機材。借りたハンドマイクを使って録音した音を聞かせた。
「話し声………女の子のようですが」
「俺が覗きしたと思ったか？　してないからな！」
　その後も、いろいろな音を聞いてクイズのように何の音か当てたりした。
「この場所に着くまでに、いろいろな音を撮ったようですね」
　
　４人はその後、しばし耳を澄まして周囲の音を楽しんだ。
　川の流れ。風と葉擦れ。葉擦れは、虫が草葉の上を移動している時にしたのだろう。
　草の音はかすかに聞こえる程度だが、耳と目を凝らせばわかる。
　遠くから人の話し声。時折聞こえる車が通る音といった生活音も。

　修は草の音を聞きながら、ジャン先生にお聞きしたいことがありますと話を切り出す。
「今は蓮の花の時期です。蓮は開花時に音がすると言われていますが、本当でしょうか？」
「ロータスが咲く音？　ポンって音を立てて咲くと聞いたことアリマス」
　蓮は硬いつぼみが一気に開くので、開花時にそのような音がする。
　午前４時頃に開花した際、鳥の声、虫の声が一斉に止まる瞬間もあるらしい。
　蓮の花について話してくれた知人がそう言っていたと、ジャン先生は答えた。
「つぼみが開き、鮮やかな桃色の花びらが開く瞬間に聞こえるのは産声みたいな音なんでしょうね」
　生命誕生の音みたいですね、と神秘的なイメージを想像する桜。
「ポンッと開くような形はしていますね。解けるように開いて、実際には音は出ないのかもしれませんが」
　人には聞こえない、かすかな音かもしれない。それでも……と修は思わずにはいられない。
「私も、蓮の花の産声を聞いてみたいです」
「俺も聞いてみたいぜ、その音。滅多に聞けないとなると、余計聞きたいぜ」
　豪も興味を示してくれた。
「夏休みに皆で聞いてミル？　朝早いケド」
　皆でその音を聞こうと言ったジャン先生は、生徒達以上に楽しそうだった。

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あとがき

担当マスター：カターレ
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カターレです。
音を探す、という一風変わった探し物、いかがでしたでしょうか。

参加された皆様の好きな音は、それぞれの特徴や性格が表れていると思いました。
生きている証と言える胸の鼓動。
風が吹く音、水が流れ、水面が揺れる音。
花が咲く瞬間の音。
何気なく聞いている音。
私達が生活している周囲には、いろいろな音があることを改めて実感しました。

そのことを教えてくれた音探しをしようと言い出したジャン先生と、参加してくださった方に感謝します。
ありがとうございました。

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