『うさぎ屋』でお好み焼き食べよう！｜リアクション

『うさぎ屋』でお好み焼き食べよう！

●彼女の一日

「今日は……学校は普通日課だったねぇ。そうすると、仕込みは少し多めで置いとこうかねぇ？」

　宇佐見満月は玄関先に椅子を出して、その上で座布団を干している。ここはお好み焼きの店・『うさぎ屋』。旧市街・参道商店街のほど近く、ちょっと路地に入ったところにある年季の入った店。満月はこの店の店主で、２代目。味と大きさは先代から定評があり、それは今も受け継がれている。

「それじゃ今日もやっていくかねぇ」

　昼の営業時間にやってくる客は大体が近所のお爺さんお婆さん。先代の頃から通っている常連もいる。お互いによく知る顔なので、世間話を挟みつつお好み焼きを振舞う。
　たまにタクシーやトラックの運転手などがふらっと立ち寄ることもある。それだけ気軽にのれんをくぐれる店なのかもしれない。

「じい様ばぁ様には忙しくなけりゃ届けに行ってやってるんさ」

　昼の営業が終わると一旦店を閉める。夕方に再び開けるまでの時間はメニュー開発に充てている。

「メニュー開発……というか『実験』の時間、かねぇ？」

　満月は家庭用のイカ焼き機を取り出すと材料を確認する。とりあえずはオーソドックスな内容で試しに作ってみることに。それが成功したら、今度は別の具材を入れたりトッピングを検討する。

「ま、自分が納得できる出来なら子ども達に食べて貰おうかなってね」

　メニュー開発と平行して弟と姪のために夕飯の準備も行う。今日はイカと里芋の煮物に、具だくさんの豚汁。

「……うん、上出来」

　そうしているうちに時間は過ぎて、午後休みも終わろうとしていた。イカ焼きの検証結果をメモして、夕方の開店準備にとりかかる。
　この時間が一番忙しい。授業を終えた学生たちが放課後にやってくるからだ。

「イカ焼きのメニューも出してっと」

　半紙に筆でさらっと書く。臨時メニューはこういう風に掲示することにしている。

「作りおきのお好み生地にもう少し出汁と鰹粉を入れるのがベストみたいさね」

　イカ焼きのメニューを店内に貼ったところで、学生たちがのれんをくぐりながら入店してきた。　

「いらっしゃい！」

　きっと今日も瞬く間に店内が賑やかになることだろう。

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