本日は臨時休業で｜リアクション

本日は臨時休業で

●仲良し大学生の過ごし方

「今日最後に受ける講義、お休みですか」
　どうしましょうと頬に手を当て、古苗木美姫は何をしようか考える。
　その様子を見た葉月朱真は、美姫が困ってるように思えた。
「休講になったので、どうしようかと。お休みですし、どこか出かけませんか？」
「そうだな、たまの休みだし」
「サボタージュではありませんから、いいですよね？」
「休講だから問題ない」
　どこに行こうか話し合ったが、思い付く場所がない。
「朱真ちゃん、カフェでゆっくり過ごすのはどうでしょう？　お気に入りのカフェがあるんですけど」
　普段は家にこもりがちなせいか、朱真はそういうことにあまり詳しくない。
「じゃあ、そこに行こう」

　美姫が案内したのはリュエール・デ・ゼトワールという喫茶店。
「飾りつけもロマンチックなお店で、店員さんが素敵なんです」
　作ってくれる星明りコーヒーとタルトが好きなんです、という美姫の話を、朱真は嬉しそうに聞く。
　注文はそれで、と、店員に星明かりコーヒーとタルトを２つずつ注文した。
　待っている間、朱真は鞄からタブレットPCを取り出そうとしたがやめた。
　美姫と一緒に、楽しいひと時を過ごすのだから。
　コーヒーとタルトをテーブルに運んだ店員は、ごゆっくりどうぞ、と注文したものを置いていく。
「ふふ♬　贅沢な時間って、こういうことを言うのかな」
　タルトを一口食べた後、美味しそうな表情をする美姫。
「この店は、アクセサリーや小物も売っているようだな」
　コーヒーを飲みながら店内を見渡す朱真は「アクセサリーや小物を作れるのか？」と訊ねた。
「アクセサリー作りは土日や祝日に作れるみたい。今度やってみようかしら」
「わたしもやってみよう。模様にデザインに暗号、何らかのメッセージを入れたアクセサリーや小物とかは作れないだろうか」
　古典ミステリーに出てくる暗号を使ったものは量産には向かないだろうが、作るのはちょっと面白そうだ。
　パズルの作成と解読が趣味なので、そういう要素を入れるのは良さそうだと朱真は想像する。
　そんな趣味を知っている美姫は、難しそうと思った。思いつくのは、知恵の輪みたいな簡単なものくらいだ。
「ぐらぐらイベントで星座のペンダントをもらいましたね。朱真ちゃんの星座は乙女座だったよね」
「まだ少し先だが、８月３１日で、わたしは２０歳の誕生日を迎える」
「もうすぐですね。今度、お祝いしましょう。先に大人になれていいなあ……」
　そうでもない、とタルトを一口食べてから昔はもっと大人のイメージでいたが、今はそんな実感もないと言う朱真。
　背は伸びないまま。このまま大人になって大学を卒業したら、その先はどうなるのか。
　葉月家とそれにまつわる諸々を継ぐことにはなるのだろうが、それ以外の道も、あるのかもしれない。
　そう考えると、大人になることがとても複雑に思える。
　
　話が途切れてしまったので何か話を……と、朱真は「美姫、恋バナのひとつもないか？」と切り出す。
「わたしは色恋沙汰は縁もないが、美姫はどうかね」
「わ、わたしだってないです！　今はいないけど、この夏こそ……恋人とおでかけしたいです！」
　ノロケ話は当分ないな、と朱真は自分もいつかは……と思った。

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