本日は臨時休業で｜リアクション

本日は臨時休業で

●うみねこで過ごす時間

　居間に案内されるなり、いたごはギターを鳴らし即興ソングを歌い始めた。

　かっちけねぇ、かっちけねぇ
　恐れ入谷の鬼子母神ってね
　市場の野郎がよー

　間奏部分は、臨時休業の説明の台詞が。

　てなわけで、いつもの魚が持って来れなかったんだよ
　明日は大丈夫だと思うし、今日んとこはこれで勘弁してくれー

　ちくわと干物を差し出し、お詫びの品とハルコに手渡す。
「あ、ありがと」
　今晩のおかずにでもしようと思い、複雑な表情をするハルコ。
　その後は、ケンゾウが持って来た日本酒での酒盛りタイム。大人達は飲酒できるが、未成年の綾花はオレンジジュースだ。
「お、旦那いける口だね。よし、じゃ奥さんも」
　ケンゾウの飲みっぷりに喜ぶいたごはハルコに勧めるが、飲めないからと断られた。
「ハルコバァちゃん、アンタにあげたいものがあるんだ。あたしが編んだ肩掛けだよ」
　似合うかわかんないけどねぇと、自信なさそうに満月は手渡す。
　肩にかけ、鏡を見て確認。海を連想させる色のヤーンを選んだのは、漁港の食堂だから。
「いい出来じゃないか」
「喜んでもらえて嬉しいよ。編んだ甲斐があったもんだ」
　お似合いです、と綾花も褒める。

「よし、ここらで奥さんの美声も拝聴しようじゃないの」
　綾花からハルコは歌が上手と聞いたので、いたごは聞きたいと思った。
　ハーモニカをケンゾウに差し出し吹いてとリクエストするが、吹けんというのでいたごが代わりに。
「待ってました、うみねこの歌姫！　懐かしのナンバーでいいかな？」
　歌いたい曲を聞くと、知っていたので吹くことができた。ハーモニカの音とハルコの陽気な声が部屋に響く。
「上手だねぇ」
　手を叩き楽しむ満月と、久しぶりに聞きましたと懐かしむ綾花。

　酒盛りが落ち着くと、綾花はうみねこ夏メニューの話を切り出す。
「せっかくなので考えませんか？　夏限定メニューのうみねこ定食には何がいいでしょうか？」
「夏なら、カマスやカンパチはオススメだよ」
　いたごは魚屋店主として意見する。
「カマスの干物の炊き込みご飯、カンパチの刺身、あら汁がいいですね。あとは、ししとうとピーマンとキスの天ぷらとか」
　ししとうは栄養価が高いため夏バテに効くとされ、さまざまな調理法で食べることができる。
　辛いと思われがちだが、基本的には辛くない。
　問題はピーマン。苦みがあるので、子供に敬遠されるおそれが。
「ピーマンは繊維に沿って縦に切るようにしたら繊維を潰さないので、苦味も出にくくなるさね」
　そうすれば食べやすくなるさね、と満月が教えてくれた。
　鮮魚店と飲食店の店長の意見は、とても貴重なものだった。
「私達の意見、参考になれば嬉しいです」
「メニューと客のことも考えているとは。お前達の意見を参考に、何にするか決めよう」
「ケンゾウさん、ハルコさん、他の旬の食材を使ったメニュー考えましょう」
　いたごと満月も手伝うと協力を申し出た。楽しかった酒盛りは、いつしかメニュー考案会議に。
　差し入れのたい焼きは冷めていたが、合間のおやつに。

　話が終わった頃には、夕陽が沈みかけていた。
「長居しちゃってすみません。差し入れだけして帰るつもりだったんですけど、つい……」
　謝る綾花に、若い子達と話せて楽しかったと魚戸夫妻は大喜びだった。
「今度来る時は、かき揚げを買って帰りますね。次のバイトの時のお愉しみにしておきます」
「そん時は出来立てのかき揚げ、作ってやるからな。いたご、満月、お前らにも作ってやるよ」
　ケンゾウの言葉に綾花は頑張ろうと張り切り、いたごと満月は出来立てのかき揚げを楽しみに。