本日は臨時休業で｜リアクション

本日は臨時休業で

●うみねこ臨時休業

　綾辻綾花は差し入れのたい焼きが冷めないうちに、大衆食堂『うみねこ』へ。
　開店準備で忙しいようなら、お手伝いをしようと考えているうちに店前に着いた。
　いつも通りかと思っていたが、店の開き戸に『本日臨時休業』という張り紙が。
「あれ？　今日は営業日のはず……」
　月曜以外は、よほどの事情がない限り営業している。
　元気いっぱいな魚戸夫妻が体調を崩したのか。それとも、他に何か理由があるのか。

　綾花が『うみねこ』裏にある魚戸家に行こうとした時、ギターとちくわ、干物を持った新井いたごが来た。
「最後にと思ってたけど、存外早く着いたな。あ、やっぱ『うみねこ』も休み？」
「臨時休業だそうです」
　ここもか、と少しがっかりするいたご。
「魚新の旦那じゃないか。アンタもここに用があるのかい？」
　作った作品を入れたバッグを持って来た宇佐見満月は、魚戸ハルコはいるかねぇと気になっている。
「ここも休みだってさ」
「私は学校がお休みなので、お手伝いしに来たんですけど……」
　心配なので、様子を見に行くのを付き合ってくださいと大人ふたりに綾花はお願いする。
「うみねこにゃーにゃー♪　寝てる時は裏ですよとくら～♪」
　歌いながら、いたごは歩いていく。

　魚戸家の玄関前に着くと、年長者のいたごが呼び鈴を鳴らす。
　鳴らしても誰も出ない。玄関に鍵がかかっていないので、満月が戸を開け声をかける。
「うみねこさぁん、今、暇かい」
「ケンゾウさん、ハルコさん、いらっしゃいますか」
　綾花も声をかけるが反応なし。
　倒れているかもしれない。３人は魚戸家に入って様子を見に行くことにした。
　勝手に入るけどごめんねと、いたごが玄関に足を踏み入れると「何だよ……」という魚戸ケンゾウの声が。
　働いている時と違い、ランニングシャツにステテコという親父臭い恰好だ。
「ケンゾウさん、どうして臨時休業にしたんですか？」
　なぜ休業なのか、綾花はその理由を知りたかった。昨日まで仕事をしていたので、体調を崩したのであれば心配だ。
「誰だい？」
　ケンゾウが玄関に行くのを見たハルコも顔を出した。
「綾花ちゃんじゃないかい。学校はどうしたんだい？」
　ハルコは普段着の上にエプロン、三角巾をつけて働いているので自宅でも違和感はない。
「ハルコバァちゃん、あたしの愚弟がお世話になってるよ。今、暇かい？」
「暇すぎて困るくらいだよ。父ちゃん、ずっとぼやいてたし」
　おふたりとも暇だったんですか？　とポカンとした綾花だったが、元気なので安心した。
「お前、ちくわの匂いがするな。持っているのか？」
　料理人の勘か、それとも嗅覚が鋭いのか。ケンゾウは、いたごがちくわを持っていることに気づいた。
「その通り。これ、うちの人気商品なんだ」
　そう言って、ちくわを取り出してケンゾウに手渡す。
「ボクの息子、ここの新装開店のチラシ配りしてたんだよ」
「あたしの弟は店の修理をしたとか。どこか壊れてないかい？」
　あの時の坊主達か、と２人がいう息子と弟が誰か思い出したケンゾウは、すごく助かったぜと感謝した。

　話の続きは家でゆっくり、と夫妻は３人を自宅に招き入れた。
「いよっ、粋だねぇ。ここが最後なんだ、お言葉に甘えてゆっくりさせてもらおうかな」