FEAR THE FORCE：夢幻泡影｜リアクション

FEAR THE FORCE：夢幻泡影

　補遺：2　

　夢廻で幻に触れる泡の如き心地良さは、目覚めと共に薄れ始め。その残滓は外へ歩む度に影へ融けて……消え逝く。
　そしていつもの店のドアをくぐると、もう思い出せない最後の名残すら消え去り、引き替えに僕の知る彼女（げんじつ）が出迎えた。
　つまり、七枷陣がいつものようにゲームショップ『クラン＝Ｇ』をくぐると、陣のお気に入りのテーブルに、ハンドルネーム『紅（くれない）』こと芋煮紅美が座っていた。他の席は全部空いているというのにだ。
　ぶすっとして呼びかける。
「そこ、俺の席」
「だったら名前でも書いとけば？」
　――出会い頭からいつも通りな辛辣っぷりで草やな。
　この前はちょっと良いところもあったのに――と考えたところで、おや、と思う。
　この前って、いつだっけ？
　一緒になにかから逃げた気がする。なんか食事した気も。
　でも思い出せない。
　夢だったのだろうか。
　まあいい、と陣は鞄からカードフォルダを取りだした。
「なら、その席賭けて勝負や」

◆◆◆

　痛みに音はない。
　ないはずなのに、チリチリと細い繊維の束が灼けるような音を朝鳥さゆるは聞いた。
　少なくとも聞いた気がした。自分の内側から。
　全身が酷く熱い。焦げた匂いを錯覚するほどに。
「…………」
　重たい瞼をゆっくりと開ける。窓から差し込む光が痛い。
　睡眠薬を大量に飲んだ翌朝は、よくこんな状態になる。
　眠れない自分を無理に昏倒させた結果だとさゆるは思っている。
　夢を見た、のだと思う。
　その内容はほとんど覚えていない。ただ、

「藍人……あたしたちは……きっといつか……逢えるよね……」

　夢の中で、そんなことを言った気がする。
　無意識のうちに、さゆるは左胸に手を当てていた。
　弾丸が残っていないか、確かめるかのように。

◆◆◆

　座ったまま、南戸河蔵人は目が覚めた。
　また寝落ちしていたようだ。
　パソコンの画面は真っ白、書きかけの文章を見ると、もう絶望的なくらい誤字脱字の嵐で、しかも内容が破綻していた。
　深くため息をつく。
　楽しい夢を見ていた気がするんだけど……なんだったかな。
　普段できない役割を楽しんでいたような覚えがある。
　思い出せないかなあ。
　思い出せたら、文章にしてまとめてみようか。

◆◆◆

　まだ午前中で開店準備するにも早すぎるくらいだが、なぜだか興が乗って、藤堂静は店内、酒棚の整理をしている。
　グレナデン・シロップは、在庫が乏しいということに気がついた。買い出しメモにつけておく。昼のうちに買っておこう。
　アメールピコンのほうは大丈夫だ。あとはソーダがあればいい。
　アメールピコンハイボールを作るためには。
　基本はアメールピコン、これにグレナデン・シロップを少々加えステア、さらにソーダを加えてステアすれば完成。
　苦いが後味は爽やかで、甘い記憶だけが舌に残るカクテルだ。
　カクテル言葉は「分かり合えたら」。
　これをふるまいたい客がいる――という記憶とともに静は目ざめた。
　それが誰かは覚えていない。夢で出逢った人間だから。ただ、兄弟だったという印象だけ残っている。
　その客が来ればすぐにわかるだろう、そんな風に考えてもいる。

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