仮のちぎりを　いかで結ばん｜リアクション

仮のちぎりを　いかで結ばん

「さくくんも『ねこったー』見たでしょ？　明日ちぎりのことで会議するんだってねぇ」
真辺の言葉に、すいと人の姿に戻ったラッセルが答える。
「そうか。俺も出てみるかな。鳥の立場でわかることもあると思うし」
「なら俺も顔だけは出そうかねぇ。何もできるとは思えないんだけどねぇ……」
「だな。こいつ、『僕のことなんてもういいですぅ……』とか言いそうな顔してる。なんとかしてやりたい」
「あー。さくくんもそう思った？」
「バレバレだろ。動物って態度が素直に出るからな」
そう言ってラッセルは立ち上がると、用務員室の窓を開けた。
「ま、明日だな！　真辺もそろそろ戻って寝とけよ」
「ありがとうねぇ。さくくん、おやすみねー」
ラッセルは再びカナリアに変じ、答えの代わりに一鳴きして飛び去っていった。ちぎりもまねて一つ鳴く。
「俺はもう少しいるからねぇ」
心配いらないというように、ちぎりに呼びかけた。
「寝てもいいのよー。今日は早く眠くなるといいねぇ」
夜中に高校のトイレに侵入して、トイレットペーパーで水気を拭く。そんな野生とかけ離れた生活を繰り返していたちぎりはこうして夜中まで起きていることがよくあった。伸幸は頭をなでたり、タオルをしぼってやったりしながら、他愛もないことを話してやる。出会った不思議な事件のこと。大切な友人のこと。鳥が理解するとは思えなかったが、それでも話しかけて、そばにいてやりたかった。
（誰かと一緒だと、暖かいでしょ？）
伸幸は小さいきょうだいを見るように、ちぎりに暖かい視線を注ぐ。しだいに幼鳥の黒い頭が下がっていき、まぶたが閉じられようとしていた。
「おやおやぁ、おねむかなー。じゃぁ、俺も帰って寝るとするかねぇ」
懐中電灯をそっと消す。闇の中、ひときわ影の濃い場所に伸幸は静かに移動した。
「おやすみねー。ちぎりさん」
そして「帰る」とつぶやいた。『帰宅ロジック』の力が開き、伸幸の体は寮の自室へと転移する。
（ぜーんぶ、俺の杞憂だといいんだけどねぇ）

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