普段とは違う一日｜リアクション

普段とは違う一日

『♪♪♪』

　その場でスキップでもしそうな程に幸せそうな空気を出している小山内海。その表情は嬉しそうな笑顔で彩られていた。
　海は言葉を発する事が出来ない為に鼻歌こそ歌っていないが可能であればきっと歌っていた事だろう。

　海が何故、幸せそうにしているかと言えば思いがけない幸運が舞い込んで来たからなのだ。母親から分けて貰った宝くじ。その一枚が何と当たっていたのだ。
　その金額は一万円と学生の身分にしてはかなりの金額だと言える。思わぬ臨時収入にこれをどう使おうかと嬉しい悩みを抱えていたりする。

『せっかくのラッキーなんだし何かいい物買っちゃおう。でも何買おうかなぁ』

　じっとりとした六月の空気が漂う街中。そんな中を歩きながら何かを買うか悩む海。
　海とて年頃の少女であるのだから買いたいものは沢山ある。服とか靴とか様々。だが、今回はどうせなら普段から使える物が良いと考えていた。

『……筆記用具、新しくしようかな』

　そう考えた海は早速文房具屋へと向かう事に。向かう先は、普段は行かない少し良い物を置いている店だ。
　店の中に入り商品を見て行くと、やはり普段買う物よりも値段が高いなぁと思う。でも、だからこそ本日はここに来たのだ。
　少しだけ憧れていた文房具達。これ等を本日の海であれば購入する事が出来るのだ。

『さて、どの筆記用具にしようかな』

　筆記用具といっても様々だ。それに、ただ一つだけにする必要もない。この店でも、幾つかが纏められたセットのような物を売っていたりする。
　陳列されている商品を見て行くと、ふととあるコーナーが目に付く。それは――万年筆のコーナーだ。

『万年筆ってどうなんだろう？』

　万年筆。海の周囲の友達やクラスメイト達の中で使っている人間は見た覚えがない。ただ、大人であれば時折使っている人は見た事があったというくらいだ。
　だが、如何にもイメージとして扱いが難しそうな物であると海は思っていた。実際、万年筆は今回の臨時収入ですら全く手が届かないような金額の物がザラにある。

　しかし、同時に1万円以下で買える物も確かに存在するのだ。このコーナーにもそう言った万年筆も置いてあった。
　問題は扱い方とか手入れの仕方とかそういう事を全く海が知らない事にある。

『よくわからないから店員さんに聞いてみよう』

　そう。ここは店なので、解らなければ店員に聞けば良いという海の考えは正しいだろう。
　近くにいた店員にスケッチブックを掲げて万年筆の事を訪ねてみると、色々と教えてくれた。

「万年筆の評価軸にペン先の柔らかさという物があります。しかし、基本的にはこれはあまり参考にしなくて良いです」
『そうなんですか？』
「はい。柔らかさと一言で言いますが、柔らかければ良いと言うわけではないのです」
『なるほど』
「お客様は初心者という事なので、この辺りの物がお勧めです。この中から見た目が好みの物で宜しいかと思いますよ」

　そして、海は店員からお勧めされた物の中で気に入った万年筆を選び取り、それを購入する。

『うん、良い物買えた。これから長く使っていきたいね』

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