【星幽塔】第一階層　夢のマイホームを解放せよ！｜リアクション

【星幽塔】第一階層　夢のマイホームを解放せよ！

◆二階：時計塔/2
「――うわっ！？」
彰尋の横面から、グレムリンが一匹飛びかかる。
爪でひっかくように放たれる、風の刃。
狙うは、彰尋の服の胸ポケット。赤青紫の金平糖のようなもの――『星の雫』が入った透明な瓶が、わずかに顔を覗かせている。
「ヴィヴィ、力を貸して！」
凛、とグレイスの声が響く。
噴水のようにほとばしった水流が、グレムリンのアゴを下から思いっきり殴り飛ばした。
カエルの鳴き声をねじまげたような奇っ怪な声をあげ、グレムリンが宙を舞う。
くるくると宙を舞い、針を床に突き刺してどうにか着地するいたずら妖精。
けれど態勢を立て直す間もなく、クリメントの竜の尾が、その矮躯を捉えた。
時計塔の中を壊さないように気を使った一撃は、けれどその重さと鋭さには、一切の手心なし。
破裂するのにも似た音が、その場で弾ける。
叫び声をあげることすらできずに吹っ飛んだグレムリンが、梁に激突。ピンボールの玉のように軌道を変えて、床に叩きつけられる。
少し、床が軋みをあげた。
そのまま、クリメントは周囲を薙ぎ払うように一回転。
獲物を狙う肉食獣のように鋭利で冷徹な視線が、柱の陰から様子を伺う、いたずら妖精どもの姿を捉える。
その手の弓に番えられた矢は、天井目指して飛んでいくアリスへと向けられていた。
はて、彼女は何をするつもりなのか――いや、今はいい。
大事なのは、こいつらを掃除することだ。
「大好物、全身で味わってみてはいかが？」
魔法銃の引き金を引く。
銃口から飛び出すのは、弾丸とはまた違う無数の欠片。
それは硝煙の匂いの代わりに、ほのかに甘い香りを漂わせる。
そう、飴玉だ。
歯車に、柱に、床に当たった飴の散弾が、粉々に砕けて飛び散った。甘い香りが、色とりどりのきらめきが、時計塔の中に広がる。
けれどその一方で、飴弾を浴びたグレムリンが悲鳴をあげていた。
細かく砕けた飴は、甘い牙となって妖精の身体に食らいつき、突き刺さっていた。
そうなる程度に――血は出なくとも、痕を残す程度に、それは鋭い。
（……おやおや）
けれどそれもどうやら、当たらなかったグレムリンにはあまり関係ないらしい。
仲間が悲鳴をあげていても、おかまいなし。
鼻をひくつかせたかと思うと、目を見開いて床へ、歯車へ、柱へ――飴の弾丸が散らばるそこらじゅうへと殺到する。
「グレムリンは、ほんとに甘いものが好きなんだね」
くすくす笑うアリスの声が、頭上からこぼれる。
仕事モードに頭が切り替わっているから、だろうか。クリメントには、そんな微笑ましげな風には思えなくて。
「仲間がやられているのに、懲りない奴らです――ね！」
グレムリンごと飴の欠片を掃くようにして、竜の尾を振るう。
その勢いを利用して、クリメントは大きく跳んだ。
翼のすぐ横を柱が掠めるのを感じながら、空中で身をひねる。その回転に己の体重を乗せ、ハンマーの如く尾を振り下ろした。