【星幽塔】第一階層　夢のマイホームを解放せよ！｜リアクション

【星幽塔】第一階層　夢のマイホームを解放せよ！

◆地下：宝物庫/1
残る一組が目指すのは、キマイラが居るという地下の宝物庫。
すなわち、このモンスターハウスの中でも最も強力な魔物の住処である。
その道すがら、ヒューマ・ノ・スキッドが、皆に声をかける。
「そうだ、みんなにこれを渡しておくよ」
腰のベルトポーチから取り出すのは、人数分の小さな瓶が二セット。それぞれ色は異なっていた。
八神修が、礼を言いつつ受け取って、
「ヒューマさん、これは？」
「こっちが解毒薬で、そっちは回復薬。毒の息は厄介だし、キツい戦いになりそうだからね。できるだけの対策は、しておかないとね」
口元を布で覆うヒューマ。気化した毒をできる限り吸わないようにする、対策の一つだ。
「これも渡しておこう」
旅鴉月詠が、その場の全員に瓶を投げよこす。
中にたっぷり詰まっているのは、見ているだけで口の中いっぱいに苦味が広がってくる、濃い深緑色の液体。
「旅鴉、これ何？」
御剣刀が、思わず怪訝な顔で問う。
「青汁だ」
「青汁かぁ……」
「苦いが、解毒効果もある。あと、味も匂いも野菜だから、そこは安心するといい」
「ほんとに青汁なんだな……」
まあ、ヒューマの薬もあるのだから、予備と考えておけばいいのだろう。
それにどんなに苦いと言ったって、苦味のせいで死ぬわけでもなし。キマイラの毒でもがき苦しむよりは、よほどマシだろう。
「みんな、見えたよ」
サキリ・デイジーカッターの声に、皆が視線を振り向ける。
そこにあったのは、地下へと続く石造りの階段。大人が三、四人は並んで歩けるその階段の先に見えるのは、周囲を金属で補強された木製の扉……の、変わり果てた姿だ。
金属製の閂はかすがいごとへし折れ、左右の扉は内側を大きくえぐり取られている。それどころか扉を支える蝶番もほとんどが弾けたりねじれたりしていて、扉自体が「辛うじて壁にぶらさがっている」とでも言うべき有様だった。
「これ、たぶんキマイラの爪だ」
階段を囲う石壁の一点を指差す、アスワド・クロノワール。
そこには、確かに爪痕としか思えない傷がついていた。キマイラの縄張りを表すメッセージだろうか。鋭く深く刻まれたソレは、アスワドの頭よりも一回りほど大きい。
アスワドの耳が、ぴくりと震える。
怖気づいた？　いやいや、まさか。
強そうな相手だとは思っていたが、期待していた以上の大物かもしれない。戦闘民族ヴォーパルバニーの血が、アスワドの小さな体の中でふつふつと沸き立ち始める。
「サキリー！　早く一緒に行こう！」
とびっきりの遊び場でも見つけた子供みたく、アスワドが真っ赤な目を輝かせる。その様は、バニーというよりは肉食獣のよう。
逸る彼女を、サキリは「待って」と制す。
「毒の息が充満してるかもしれないから」
口元を簡単に布で覆いつつ、『魔風の光』を発動。壊れた扉の向こうへと、新鮮な風を送り込む。
……わかってはいたことだ。
もしかしたら、キマイラが反応するかもしれないなんてことは。
だから、微かに……ほんの微かに、獣の唸り声が聞こえてきたとしても、誰も驚いたりビクついたりはしなかった。
あるいはむしろ、ちょうどよかったのかもしれない。
戦いの、合図として。
「ヴォーパルバニーの力、見せてやる！　突撃ー！」
これ以上は我慢できぬとばかり、アスワドが先陣を切って飛び込んだ。