夜のひとときを……｜リアクション

夜のひとときを……

【やってきたメイド？】

　檜扇唱華は、４人テーブルで騒ぐ二人をちらりと目に映しつつ、カウンターの椿の方よりの席へとゆるゆると歩きながら腰をかけた。
　マスターとちらりと視線を合わせると、出されたメニューを見ながら微笑んだ。
「ワイン欲しいですね。……あ、できれば選ばしてくださいな？」
　そう言って、カウンター付近に置いてあるワインに目をやった。
「え？　あ、ありがとうございます」
　なぜ分かったのかは謎だが、唱華が望んでいた白ワインの銘柄がいくつか並べられた。
　先程の一瞬の視線から見抜いたかどうかは謎だが、とにかくそうなったのだ。
　唱華は内心で驚きつつも、そっとろっこん『声無き声』でワインたちの声を聞く。
「……カクテルな気分な方は誰でしょうか？」
　……帰ってきた言葉はこうだ。
「おいしく飲んでいただけるのならば、誰だってカクテルになりたくなる」
　そんな言葉に微笑みつつ、マスターにいくつかお願いする。
　食べ物の前にと渡されたキールに唱華は自分の欲しいものと一致してまたまた驚いた。
　チーズの盛り合わせや、簡単なおつまみを食べながら、頭の中は回転する。
「炭酸水とジンジャーシロップでジンジャースプリッツァー、ジンジャーエールとレモンジュースでオペレーター、ピーチリキュールとグレナデンシロップとシュガーシロップでシンフォニー……いいですねシンフォニー。このお店にピッタリ」
　詳しいですねという給仕さんの言葉に唱華は悠然と言った。
「メイドなので当然ですわ」
　自分の持っていた満載のスポーツバッグに目をやりつつ、自分の主や妹のことを考える。
　といっても、どんな奇異な格好やモノを持っていてもここでは気にされそうにないのだが。
　ふと、ピアノの曲調が変わっていることに気づいた。
　いくつもの気がつかれない工夫……そういうのは嫌いではない。
（お買い物もしなくてはいけませんね。パンにチーズにサラミ、あとはグレープジュースでもあれば完璧）
「そういえばここはワインのテイクアウトはできますか？」
　残念ながら、ワインのテイクアウトは出来なかった。
　引き替えに、いくつか銘柄や打っている店などの有意義な情報はもらった。
　唱華はこの時間を楽しんだ。

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