夜のひとときを……｜リアクション

夜のひとときを……

【雛鳥は雛鳥であるが故に】

（……弟の下宿先に挨拶もしたし、たまには夜風に当たりながらぶらついてみるか。相棒――自転車はもう店に預けたしな）
　そう思いつつカウンター席で物思いにふけっていた志波高久はドアの開いた音に気がついた。
　しかし、ちらり、とドアではなく客を見てみる。
　彼らはどうやら、自分たちのことで精一杯のようだ。
　ちらり、と今度はドアの先を見る。
　どうやら、今度は追い出されないようだ。
　先ほど、入ってきた青年（――刻人・F・ミセリアという名前が聞こえた）はあっさり追い出されていたが、今回は違うらしい。
「お一人様ですね」
「あ、はいそうです」
　早速、声を掛けられて、席に案内されている。
　そのほっそりした男（景貴）を見ながら、高久は先ほど起こったことに思いをはせた。

　――それはほんの少し前のことであった。
「あぁ悪い、酒は」
　手で拒否を示しつつ、マスターの方を見やる。
「普段は飲むんだが、明日朝一で地元に戻らなきゃならなくてな。マスター、ノンアルコールカクテルお任せでいいか？」
　マスターは一度頷くと、しばしカクテル作りをし、カシスリッキーをすべらせてきた。
　カシスシロップにレモンの果汁を搾った甘さ控えめなカクテルは、じんわりと体に広がり、疲れを癒やした。
　そのとき、店のドアが開かれた。
「ってあっちゃあ……完全に、お酒出す店、ですね」
「えぇ、そうですよ、ちょっと飲めない方にはお断りさせてもらってるんですよ」
　そんな会話が聞こえる。
　高久が見れば、だいぶ若い――ように見える青年が困り顔で給仕さんと話している。
「一応、身分証だけは――えぇ。刻人・F・ミセリアさん。はい、では２０歳になったらいらしてください。ご飯でしたならここから先の……」
　そう言って、代替え案を出しつつやんわりと断る給仕さん。
「お酒は２０から、ですよね。えぇ、おいしい店の情報ありがとうございます」
　そういって、あきらめたように刻人は笑い、店を出て行った。
「２０歳になったらマリア――あぁ、婚約者ですよ。彼女と来ましょう」
　そんな言葉を残して。

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