Let's Play！｜リアクション

Let's Play！

【ハードモードにへんこうします。】

　さて、あまり順調過ぎるとかえって視聴者が冷めてくる――というのもまた実況プレイの常である。
　そのあたり、動画実況経験者の蒼はよくわかっていて、
「……おっと、やばい。油断してると駄目だねー」
　あえてミスをしてピンチになって見せたりと演出を忘れない。
　そんなプレイの演出で魅せるのが蒼なら、熱い語りで魅せているのが流だった。
「よし、５－５にきましたよー。この吸血鬼がニャルカードなんですねー。続編で主役に格上げ、かつ、耽美系にイメチェンしたオールバックなおっさんニャルカード！」
　饒舌に語りつつ、コウモリに変身してプレイヤーを翻弄するニャルカードを流は華麗な鞭さばきで撃破。
　すると、灰になったニャルカードが復活して語りかけてくる。
「さあ、ここから待望のニャルカードルートに突入だ！」
　彼が仲間になると、さらにゲームは進んでいく。
　と、そのとき、部屋のどこからともなくＲＰＧで呪いのかかったアイテムを装備してしまったときのような音楽が流れた。
『このままではおもしろみにかけるので、ハードモードにへんこうしました。』
　配信画面にそんなテロップが表示されて、それに反応するようにコメント欄に『（笑）』を意味する『ｗ』マークが飛び交う。
　それと、五郎八の密かな企てが成功したのはほぼ同時だった。
「……あ、行った。よし、これでこのまま一気に――」
　画面はいきなりＥＤ直前に。
　だが、そこで部屋に警笛のような音が響く。
『５６８さん、その裏技は禁止です。よって、強制ゲームオーバー。オシオキです』
「え？　ちょっと、そんなの聞いてな……きゃああああああああ！？」
　次の瞬間、部屋の壁に穴が開いたかと思うと、そこから猛烈な水が五郎八に向かって放出、彼女は濡れ透け状態になってしまう。
「え？　ハードモードってそういう意味！？」
　まゆらが驚いたように言ったとき、手元が狂って選択肢を間違えた。
「あ、ヤバ……」
　と言ったときにはもう遅い。
　まゆらの操る主人公は、南海の孤島で釜茹でにされてゲームオーバーになってしまう。
『ゆららさん、ゲームオーバーです。オシオキ』
「きゃあああああああああああ！？」
　刹那、まゆらにも部屋の四方から水が放出され、彼女もまた濡れ透けに。
　二人がそうなった直後から、一気に視聴者の数が増え始めたのは言うまでもない。
　それは視聴者のみならず、ほかのゲームのプレイヤーの視線さえも集めかねない光景だったが――。
「いや！　ストーカー、見んな！　こっち来んなぁ！！！」
　殺人鬼から絶賛逃げ惑い中の柚枝はそれどころではなさそうだった。
「……ぎゃあっ！？　え？　な、なんかコントローラがビリビリっときたんだけど！？」
　と、柚枝が悲鳴をあげれば
『ハードモードなので、ミスをするとビリビリきます』
　と、配信画面に無慈悲な文字が表示される。
「先に言おうよ！　心臓に悪すぎるって！　って、わ、ちょ、誰か……連れていかれる……！」
　そうしている間に、殺人鬼は瀕死になった柚枝のキャラを担いで、ミートフックに運んで吊るし上げようとする。
「……ふ、ふふ。『なんで逃げるん～？　痛いんは最初だけやって～ちょっとだけやから』」
　と、真は発電機を修理しながら、ミゲルに突然の低音でアテレコを入れ始める。
「イナリ、アテレコ上手いな……じゃなくて！　よし、egg、後は頼んだ。こっちだ、殺人鬼！」
　と、そこで奈津樹がおもむろに囮役として殺人鬼の前に踊り出る。
　それに殺人鬼は、あっさりと釣られて、奈津樹を追い掛け始めた。
「ヨシ！　いま、助けるヨ、Ｐ先輩☆」
　そこですかさずスグリが吊るされた柚枝のもとに駆け寄り、あと少しで死ぬというところで救出に成功する。
「ありがとう、egg！」
「お礼は後でいいから！　早く手当てして逃げよう、センパイ」
　――制限時間は、残りあと４５分。

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