Once Upon a Time？｜リアクション

Once Upon a Time？

◆リボンの国の鬼ヶ島　～Decoration Peach

（お姫様モチーフがいっぱい！　かわいいものいっぱい！）

　百岳甘桃は店の中を見回すと、心を躍らせた。お子様下着を卒業しようと親に駄々をこねて連れてきてもらった女性用下着専門店には、彼女のイメージしていたかわいいランジェリーがたくさん並んでいた。どれも素敵で、迷ってしまう。

「何かお探しですか？」

　そうしていると、ピンク色の髪の店員――秘子が甘桃に話しかけてくる。甘桃は屈んで視線を合わせた彼女に微笑みかけたが、名札にある『胡乱路秘子』という名前が読めなかった。

「おねーさんのおすすめ教えて」
「そうですね……お客様のように可愛らしい方でしたら……」

　と、秘子は棚の中から桃色と、丸く可愛いデザインの印象的なものを持ってきて甘桃に見せる。

「これ？　ピンクで可愛いね、なんのお姫様なの？」

　甘桃が聞くと、秘子はんふふと笑って、

「桃太郎です♪」

　と答えた。

「……桃太郎、それ男の子だよね」
「ええ」

　甘桃は不思議そうに桃太郎ランジェリーを眺める。言われてみると、そのデザインは桃のように見えなくもない。可愛さに惹かれたのも確かなので、甘桃は秘子に試着を申し出た。

「わーいかわいい！」

　甘桃は鏡を見て嬉しそうにこう言った。くるりと回り、ポーズを決めて、甘桃はご満悦である。

「今度からこういう下着にしよーっと」

　そうして暫し大人の気分を楽しんだ甘桃であったが、

「って……ここどこ？」

　周囲の景色ががらりと変わっていたことに気付いて、首を傾げた。甘桃の周りには猿、犬、キジがいて、目の前には屈強な鬼たちが居て、空はどんよりと曇っている。桃太郎の鬼ヶ島のシーンだとわかった甘桃は、

（わたし桃太郎なの？）

　と思いながら身震いした。しかし、腰にあるのは刀ではなく可愛いリボンとデコパーツのいっぱい入ったカバンである。可愛いもので相手を癒して友達になる、このランジェリーのもとになった桃太郎は、そういった話になっていたようだ。

「我こそは、日本一かわいい甘桃太郎！　鬼さんたち、大人しくしなさーい！」

　甘桃はそう言って、可愛いポーズをする。キャインキャインと吠える犬が、鬼に飛び掛かる！

「まずは犬さんの攻撃！　うるうるおめめで癒しちゃえ！」

　そのまま噛みつくと思いきや、犬はうるうると濡れた瞳でじーっと鬼たちを見つめだした。甘桃もその隣に並んで、うるうるとした眼でじーっと見つめる。

「次にキジさん！　リボンつけて出来あがり！」

　その上をキジがひゅんっと飛んでいった。キジは驚くべき早業で鬼の角にリボンを巻く。

「赤鬼さんにはピンクのリボンが似合うかも！」

　そんな中、甘桃は赤鬼のリボンを取り換えた。さっき巻いていたリボンより、ピンクの方が似合っている。甘桃はふふーんと得意気になりつつ、猿と一緒にダンスを踊り始めた。

「みんな手拍子お願い！　いえーい！」

　軽快なステップに合わせて、鬼たちは手拍子しだす。場がアイドルのコンサートのようになった頃、どこかからお腹の鳴る音がした。甘桃はそれに気付くと、

「みんなお腹すいたよね。きびだんごいっぱいあるから食べて食べて」

　と言い、皆にきびだんごを振舞い始めた。鬼も猿も犬もキジも、和やかな雰囲気できびだんごを食べている。甘桃は、にっこりと笑った。

「鬼さん達もいい人(？)なんだから、もう悪いことしちゃだめだよ」

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