Once Upon a Time？｜リアクション

Once Upon a Time？

◆とにもかくにも死にたくないので

「童話ランジェリー？」
「ええ」

　千歳飴楓子は並ぶ下着を見つつ、感心したように息を吐く。辺りを見回すと、白雪姫や赤ずきんのようなデザインのものが並んでいた。どれも共通して可愛らしい。

「楓子に似合うのはどれだろうか……」

　と彼女が呟くと、店員が何か持ってくる。渡されたそれを見てみると、元になった童話こそわからないが、アラビアンナイトの登場人物が着ているような、エキゾチックな雰囲気のデザインであることがわかる。

「おっこれは……アラビアンナイトか」

　楓子がそう合点すると、店員が試着を勧めてきた。せっかくだから、と楓子は店員に案内され、試着室の中へと入っていった。

「どれどれ……」

　着てみると、なかなかよく似合っている。楓子は店員のチョイスに満足しつつ、買ってみるかと考えながら試着室の扉を開けた。すると、パステルの店内は香の薫る寝所に変わっていた。そして目の前には石油王か何かのような壮麗な雰囲気の男。
　千夜一夜物語のシェヘラザードに楓子はなっていたのだった。

（ここは……寝所か？）

　目を動かし状況を把握した楓子は内心冷や汗を流した。

（やばいな。超えてはいけない一線な気がする）

　いくら相手が石油王、いや王とはいえ。楓子は幼馴染のことを思い、

（これでは幼馴染に顔向けができない）

　と焦る。これまでかと楓子が目を閉じたところで、男が口を開いた。

「どうしたシェヘラザード。早く語って聞かせてくれ」
「なに？」

　ぽかんとしている楓子に、男はこれまでの経緯を語って聞かせて、もう一度物語を所望したのだった。

（面白い話をしないと首を刎ねられるのだったか）

　この話だったら、最近プレイしたソシャゲのキャラのモデルとして使われていたなとまで考えて、

（――そうだ、イベントの周回！）

　楓子は寝子島へ帰る決意を新たにした。男は楓子が語り出すのを今か今かと待っている。楓子は居住まいを正して、

「仕方ない。ここは一つとっておきのすべらない話をしてやろうじゃないか」

　と言い、語り始めた。

　それは、ある限定ガチャ。熾烈なピックアップ。人気声優が演じ、最優のイラストレーターが手掛けた美麗なイラストを持つキャラクター。その性能はゲーム中――最強。
　多くのプレイヤーがそのカードに金を注ぎ込み、爆死していった。楓子もまた、その爆死者の一人になるか、ならないか、その瀬戸際だった――。

「ここであらわれたSR演出……」
「なんてことだ……」
「もう駄目かと、夏のボーナスもここで尽きるかと、そう思われた……」
「もう、駄目なのか！？」
「その時！！」
「おおっ」
「カードが虹色に輝きはじめた！！」
「そ、それは……」
「そう、これは……SSR演出……！！！！」
「来たのか、あのカードが……！」
「果たしてこれは目当てのSSRキャラか……！！！　それとも悲しみのダブりなのか……！！」

　物語が佳境に入ったところで、楓子は言葉を切った。男はごくりと唾を飲み込んで、期待に満ちた目を向ける。

「つ……続きは？」

　楓子は目を閉じ、こう言った。

「続きは明日の夜……」
「なんと！」

（……は、存在するのか？）

　そう思った楓子の意識が、神魂によって遠のいていった。

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