Once Upon a Time？｜リアクション

Once Upon a Time？

「旅鴉さんのものも持ってきますね」
「いや、漁らせてほしい。童話と聞いてビビッドにビビッときたのだ」

　月詠はさっと手を挙げて秘子のことを引き留める。そうして店の中を見回すと、わきわきと手を動かした。

「私のイメージに近いランジェリーがきっとあるはずだ。そうだろう。そうだろう？」
「もちろんです♪」

　秘子の笑顔と言葉に頷いた月詠は、だっと店内を廻り始めた。彼女はすぐに戻ってきて、なにやら和風なデザインのものを手に、試着したいと申し出る。秘子は彼女の手にあるそれを見て微笑みつつ、試着室へ案内した。

「それで私はこれだ。梟の染物屋という日本昔話、それも短く小さな民話だが」

　シャッとカーテンが開き、中から下着姿の月詠が出てくる。そのランジェリーは彼女の身体にぴったりとフィットしていて、デザインも彼女の雰囲気によく合っていた。よく見れば繊維の七色が編み込まれたように煌めいている。しかし、彼女の口から語られた民話の名に、月と冬華は揃って首を傾げた。

「……梟ですか？　知らないものですね……。でも、下着は素敵ですね」

　冬華の言葉に月詠はほう、と声を漏らした。

「そうか、聞いた事が無いか……簡単だが話そうか」
「お願いします」

　試着室から出てきた月詠は、レジの列に並びながら、月と冬華に語り出した。

「鳥の色を着色する梟がいたのだが、鴉の注文を忠実に叶えようとした結果、鴉を真っ黒にしてしまう」

　その内容は、彼女の買ったランジェリーのモチーフとなった民話、『梟の染物屋』だ。月と冬華はそれを聞いて、こくこくと頷く。

「承服せず怒った鴉から逃げる為、梟は夜しか活動できなくなった……という話さ」
「そうなんですね……少し可哀想ですね」
（なるほど。後で調べてみよう）

　ぼんやりと考える月の横で、冬華が月詠に微笑みかける。

「梟の話を聞くと、デザイナーによく似合いそうなものです」
「そうだろう？　我ながらいいチョイスだと思う」

　月詠は無表情ながら、どこか得意気だった。その表情はなんとなくドヤ顔にも見えてくる。月は考えるのを止めて、秘子を呼んだ。冬華に着せてみたいものがいっぱいあったのだ。月は店内をぐるりと見回して、

「他にはどんなのがありますか？」
「んふふ、そうですね。たとえば――」

　そうして秘子が持ってきたランジェリーを、次から次へと冬華に渡していった。

「冬華、着てみて」

　そうして渡された下着を、冬華も次から次へと試着する。

「どう……ですか？」
「似合ってる似合ってる。色々な冬華が見られて嬉しい」

　今にも拍手しそうな勢いで、月は冬華を褒め称えた。そうして買い物かごに冬華のための下着が次々と入れられていく。オデットとオディールのランジェリーは、その一番上に載せられた。

「楽しい買い物でしたね。また来てみたいです」
「ああ。いい刺激になった」
「うん、いい出会いがあった」

　買い物を終えた三人は満足げにこう言葉を交わしている。月は夕焼けの空を眺めながら、

（次はどんな出会いがあるかな～）

　と心を躍らせた。