Once Upon a Time？｜リアクション

Once Upon a Time？

「お客様でしたらこちらのデザインはいかがでしょう♪」

　暫くして、秘子が『童話ランジェリー』の中から冬華と月の分らしき二つを持ってきて見せてきた。お揃いのそれは、まるでバレエの衣装のような繊細なデザインである。冬華には白の、月には黒のものが渡された。

「……黒い鳥？」
「白鳥の湖か。ペアルックというやつか。いいね」
「そうです。北条さんはこちら」

　ぽやんとしていた冬華も、月に倣って渡された下着をまじまじと見てみる。白鳥の湖で白、というと――

「オデットですか？　綺麗な下着ですね」

　冬華の手にあるのは、ヒロインのオデットをイメージした下着のようだ。そして月の手にあるのは、黒鳥のオディールをイメージしたものである。月は、

「ああ、オディールか」

　と納得すると、冬華のものと自分のものとを見比べて、どこか納得したように口を開いた。

「対という意味かな？」

　試着室に入っていった冬華を月と月詠はワクワクしながら待っている。着替えているのだろうか、試着室の中から暫し衣擦れの音がして、カーテンが開く。

「お二人とも、これどうですか？」

　冬華は下着姿でこう聞いてくる。二人はそんな冬華に見惚れてじーっと見つめている。そのせいでなんだか恥ずかしくなってきたのか、冬華の肌はだんだん赤くなっていった。

「……あ、あの。言っておいてなんですけど」

　冬華は小さな声で続ける。

「あまりまじまじと見ないで欲しいのですけど」

　そこで漸く、月が口を開いた。その声色は堂々としていて、自信なさげな冬華のそれとは正反対である。

「何を言っているんだ冬華、いいデザインなんだからしっかりと見ないと」
「恥ずかしいです……」
「恥ずかしくない。あっ、ちょっとポーズ取って」

　月に請われるまま冬華は様々なポーズを取った。ぽっと赤らんだ顔がとても可愛らしい。月はそれを自らの眼にしっかりと焼き付けた。月詠は月とはまた違った表情で、冬華のことを眺めていた。

　冬華が着替え、試着室から出てくると、今度は月が交代で入っていく。

「どうだろう」
「とてもよく似合ってます……私の下着とデザインは合わせてあるんですね」

　そこから出てきた月も冬華に負けず劣らず美しい。恋人に褒められて、月はどこか得意気だった。冬華の下着姿を頭に浮かべながら、月はしみじみとこう呟く。

「うん、このランジェリーは買っていこう」

　続いて、こうも呟いた。

「黒はいいよね、夜の色でもあるし。黒鳥の意味を考えるとアレだけど」
「なんだ。黒鳥の意味はまさに芸術ではないか」

　とここで、月詠が口を挟む。月詠はきりりと真剣な表情で続ける。

「ありえない事などないし見つからないなら作ればいいのだから」

　そうして月と冬華を交互に見て、言った。

「そして黒とは全ての色だ。そこに含まれるのは何重もの色を重ねた結果生まれた混沌」

　月と冬華の二人は月詠の言うことを真剣に聞いている。月詠はうんうんと頷いて、こう締めた。

「私は好きだね黒。白も好き。染める余地があるのだから」

　そして月の方へ向き直り、にやりと笑う。

「恋人を白にするのは、そういう事だろう？」
「はい、冬華を私色に染めたいです。だからこの白鳥のランジェリーは非常にいいです」

　真剣な表情で頷いた月を見て、冬華の頬が林檎のように紅くなった。

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